2009年8月交流会
地域公共交通を通したまちづくり |
■開会
|
■主催者挨拶
株式会社連空間設計 代表取締役 今村 敏雄より挨拶
|
■問題提起「中部地域における地域公共交通の動向」
発表者:三菱UFJ リサーチ&コンサルティング(株) 筒井 康史
1.対象とする地域公共交通
- ここで対象とする地域公共交通の定義・・・「地域公共交通の活性化および再生に関する法律 第2条」より、地域住民の日常生活もしくは社会生活における移動または観光旅客その他の当該地域を来訪する者の移動のための交通手段として利用される公共交通機関。
2.地域公共交通の動向
- 全国の交通機関別輸送人員の推移・・・大量公共交通はほぼ一定であるが、バス・タクシーは半減している一方で、自家用車が急増。バスの輸送人員は、昭和45年頃をピークに減少の一途をたどっている。
- 大都市を除き民間路線バスの廃止退出が増加し、公共交通空白問題が顕在化。しかし高齢者は増加していることから、市町村は生活の足を確保する責務が問われている。
- 道路運送法の改正(平成18年10月)により制度化された、地域公共交通会議・・・地域にとって必要な路線の運行形態、運賃および料金、営業区域、使用車両、運行時刻等を、地元で協議。
⇒運行申請手続き等の簡素化・弾力化というメリット
- 地域公共交通の活性化および再生に関する法律(平成19年10月)・・・法定協議会の設置、地域公共交通総合連携計画の策定。
⇒補助金の交付を受けることができる
- まとめ・・・地域公共交通に関して地域の自主性を促す動き。法律も後押ししている。
3.市町村における実態(問題点)
- 地方圏ほど、強く公共交通の整備や利便性の向上が求められている。65歳以上の交通事故件数、免許保有者数が増加している。
⇒生活の足を確保しなければならない市町村。法律等のバックアップはなされたが、現状の取り組み実態はどうか。
- コミュニティバスの導入率83.7%。人口規模が少なくなるほど、コミュニティバスに依存している傾向にある。
⇒小規模自治体ほど、コミュニティバス事業を行っている(コミュニティバスで交通を確保しなければならない)実態が浮き彫り。
- 隣の自治体がコミュニティバスを運行しているので、自分のところにもバスがほしい。時間帯の拡大、対応エリアの拡大など、住民の要求が拡大。合併市町村での事業統合が困難。
⇒さまざまなパターンの問題があり、ケース毎に対処法は異なる。適切な対応をするためのポイントは何か?
4.問題解決の糸口
- ポイント1「地域公共交通計画・ビジョンを持っているか?」
協議できる体制はほぼ整ったように見えるが・・・道路運送法は、ビジョンの作成を義務付けていない。地域公共交通総合連携計画を策定しているところは20箇所程度
⇒ビジョンの策定は、まだ定着していない。
- ポイント2「先行事例を参考とした事業構築・改善」
地域特性、事業の目的等は地域ごとに異なるため、間違ったコピーをしてはいけない。事例集は、趣旨・狙いを理解し、対応方法についてイマジネーションを高めるもの。
- ポイント3「PDCA・事業評価」
協議会を活用したPDCAマネジメントサイクルの構築が必要。
事業評価を行っているか・・・基本事項である「利用者数」すら、実施は約半数。収支率の把握は3割。
⇒本来実施すべき「事業評価」は十分行われているとは言えない。
- 適切な事業管理を行うには、目標−評価(指標)が必要。
- 国は、ガイドラインを市町村に提示することで、活性化・改善を促している。
地域公共交通を利用する住民に最も近い「市町村」では、地域公共交通だけを手直しするだけでは不足で、「まちづくりと連動」した取り組みが求められているはず。
|

|
 |
■講演「地域公共交通を通したまちづくり〜公共交通の復権と総合的取り組みの必要性〜」
発表者:南山大学 総合政策学部 准教授 石川 良文
1.利用が低迷する地域公共交通の必要性
- 素朴な疑問 公共交通は本当に必要か?
- 高齢化が進むと言うが、人口が減少して公共交通の需要は減るのでは?
⇒バスの主な需要者である高齢者は増加するので、潜在需要は増大。
- 高齢者は家族が車で送迎するケースも多いのでは?
⇒一人世帯、高齢者世帯が増加しており、家族送迎も期待薄。
- 高齢者も車を運転できるようになるのでは?
⇒元気な高齢者はよいが、交通死亡事故も多い。
- 公共交通はどれほど環境によいのか
⇒4人乗れば環境に良い。(もちろん、空気を乗せるだけなら環境に悪い)
2.公共交通の価値と住民合意
○利用価値
- 直接的利用価値・・・現在、自分が利用するから必要。(車がない、疲れない、時間がかからない)
- 間接的利用価値・・・風景や映像を楽しむ(フランスのかっこいいLRTなど)
- オプション価値・・・現在は利用しないが、将来的に利用するために路線維持してほしい。(自家用車が故障した時など)
○非利用価値
- 代位価値・・・自分は直接利用しないが、他の誰か(地域の高齢者、家族など)が利用する
- 遺贈価値・・・自分は利用しないが、後世に路線を残したい。
- 存在価値・・・大気環境が良くなる。街の活気を維持できる。
3.公共交通の利用を増やすには
○サービス水準を改善する
- 運行頻度や時間短縮、車両改善などサービス水準を引き上げる
- パークアンドバスライドを進める
- 料金水準を変更する
- バス停の改善
○情報を提供し十分な広報を行う
- モビリティマネジメント(MM)・・・「過度に自動車に依存したライフスタイル」から「かしこく車と公共交通を利用するライフスタイル」への行動の変化を期待する施策
⇒環境や健康などに配慮した交通行動を、大規模かつ個別的に呼び掛けていくコミュニケーション施策
- その他のコミュニケーション手法・・・ニューズレター、講習会、ワークショップ、マスメディア
○富士市におけるバスの既存情報と手段提供
- ひまわりバス富士駅循環マップ、富士地区路線バス時刻表、ひまわりバスwebサイト
○利用するためにはどのような情報が必要なのか(富士市)
- バス利用状況に関する情報(知識・道徳意識)
- 利便性に関する情報(知覚行動制御)
- 環境リスクに関する情報(知識・道徳意識)
⇒沿線住民に情報提供を行った後の利用意向は、「利便性に関する情報」が最も態度変容が大きかった。
○富士市における学生主体のモビリティマネジメントプロジェクト
- 無料情報誌の発刊・・・ひまわりバスやその沿線の情報を提供することにより利用促進を図る
- 絵画コンテストの実施・・・ひまわりバスの絵を描くことにより、子供やその家族がひまわりバスを身近に感じてもらう
- 利用促進イベントの実施・・・お祭りのようなイベントを開催し、バスを身近なものとして感じていただくことで利用を促進する。
- 時刻表ポスターの掲示・・・バス沿線の施設別にポスターを掲示することにより施設利用者の利用促進を図る。
⇒MMを実施しなかった場合の推定値と実際値を比較した場合、8%の増加
⇒もっとも利用意向変化を生むことができたのは、時刻表ポスターであった。
4.公共交通利用促進のための総合的取り組み
○海外の例 環境に配慮した地域交通
- LRTの導入・整備
- 交通連合(複数市町村がまとまり、ニュータウン等と同時にLRTを設置)による公共交通サービスの充実
- 環境定期券の導入
- パークアンドライドの積極的導入
- 自動車の締め出し区域、歩行者空間の設定
○まとめ
- 公共交通の役割は増大している。公共交通だけでなく、まちづくりと一体となった取り組みが必要。地域合意形成が重要であり、市町村単位だけでなく、多主体による総合的取り組みが必要。またPDCAの実質的取り組みが必要
|

|
 |

|
 |
■質疑・意見交換
Q: |
自治体におけるコミバス導入率は83%なのに対し、地域公共交通会議は58%しか設置されていないのはなぜか。道路運送法の改正は2002年に行われているので、時間的にはかなり経っている。 |
A: |
地域公共交通会議は任意で設置すればよいため。地域公共交通会議自体、バスの運行等の変更をよりスムーズに(悪く言えば簡単に)に行うために設置されるものであるため、(特に変更の必要性を迫られない)自治体によっては設置しない。
|
Q: |
ひまわりバスの車体のメーカーはどこか。 |
A: |
車体本体はプジョー製。車両の加工は日野自動車が行っている。
|
Q: |
地域公共交通連携計画を、複数自治体が共同で策定している例はあるのか。 |
A: |
本来は公共交通網のエリアに合わせて共同で策定するべきだが、実態は市町村単位で策定されるのがほとんどとなっている。ただ、各市町村のコミュニティバスの路線を連絡するなど市町村間で連携する動きはみられる。
|
Q: |
市町村一律のサービス水準ではなく、定期券や回数券を地域で購入するなど公共交通を地域ごとに直接支えるような仕組みがもっと広がらないだろうか。 |
A: |
環境定期券の購入などの動きも広がっている。地域別のバスマップや時刻表など公共交通サービスも地域単位にきめ細かくなってきている。
|
|
(記録:加藤 洋司/(株)国際開発コンサルタンツ 名古屋支店) |