愛知住まい・まちづくりコンサルタント協議会
2009年度総会&記念講演

【日時】 2009年5月19日(火) 14:00〜16:45(記念講演は15:00〜16:45)
【場所】(財)名古屋都市センター 大研修室

総会:正会員17社(うち委任状4社)、来賓(愛知県、名古屋市)他
記念講演:参加者60名


◇総会

◇開会

◇代表あいさつ

  • 玉野総合コンサルタント(株) 小中達雄代表よりあいさつ

◇来賓あいさつ

  • 愛知県建設部建築担当局  住宅計画課課長 舟橋 均氏
  • 名古屋市住宅都市局住宅部 部長 後藤健次氏

◇議案議決の件

  • 中央コンサルタンツ(株)の吉田宏喜氏を議長に審議。原案通り可決された。
  第一号議案 平成20年度事業報告及び収支報告の件
  第二号議案 平成21年度事業計画(案)及び収支予算(案)の件
  第三号議案 役員の選出の件

◇新代表・役員あいさつ

◇閉会


◇記念講演

「地域から生まれる公共性−都市づくりの視点から−」
 
   田中重好氏    

      名古屋大学大学院環境学研究科 教授
    

1.公共性の意味転換

 まず意味転換する前の日本の公共性について西欧との対比から考えてみる。西欧において公共性とは「市民的公共性」であり、それは国家をコントロールしている。市民は国家のコントロールを受けるが、その国家は「市民的公共性」によってコントロールされているため市民は自己統治していることになる。一方、日本では公=天皇でありその代弁者として、国家が公共性を独占してきた。すなわち西欧の「市民的公共性」に対し、日本では「国家的公共性」が公共性として理解されてきた。 この「国家的公共性」が意味転換しつつある。国家に対峙する市民社会の成熟とグローバル化に伴う国家の役割の変化、グローバルな秩序確立の要請により「国家的公共性」は、「グローバルな公共性」「国家的公共性」「地域的公共性」に分化、重層化し「市民的公共性」も発生しつつある。つまり現在の日本において公共性は「国家的公共性」だけを意味するのではなくなっている。


2.都市づくり

[都市づくりの定義]
  都市づくりとはその地域が持つ「歴史・伝統・生活・文化」に根ざしたものでなければならない。つまり、都市づくりは空間づくりだけでなく、仕組みづくり、活動づくりの3つによって構成されている。

[都市づくりの主体]
  都市づくりの主体は市民、行政、企業の3者である。しかしながら三者三様の基準や内容を持っている。例えば、市民が暮らしやすさなどのアメニティを重視する一方、行政が公共性を重視し、企業が経済効率を重視するといったことがある。

[都市づくりの分類]
  都市づくりの分類軸として「集権⇔分権」「営利⇔非営利」に加えて、「深さ⇔浅さ」の概念を加えて考えるべきである。浅い都市づくりとは既存の制度の枠組み内での都市づくりであり、深い都市づくりとは都市計画法などの法制度を全面的にひっくり返すような都市づくりである。残念ながら多くの都市づくりは浅いものに甘んじている。


3.地域から生まれる公共性

 20世紀末以降、日本において飛躍的な経済成長、都市膨張の時代は終焉を迎えた。今後は安定成熟した都市型社会をいかに作っていくかが重要である。
 日本の都市計画について再度確認する。日本の都市計画は「国家的公共性」により国家に独占されていた。そのため市民不在であり地域固有の公共性は許されず、「市民的公共性」は全く考えられていなかった。
 しかしながら、公共事業そのものが大きく変わったということと、都市基盤整備、都市施設の水準が上がったことなどにより、いま日本の都市計画は次のように変化しつつある。

  1. 行政の主導性が薄められ、
  2. 参加と連携の理念をベースに多様な主体が参加・協議しながら進められてゆく。
  3. 都市全体がヒエラルヒー型からボトムアップ型へ変化してゆく

 この変化に対する制度改革も実施されている。

  1. 都道府県、市町村レベルのマスタープランの創出
  2. 地方分権改革・・・「地方の自己決定、自己責任、自己統治の理念の下まちづくりの中心的役割は住民にもっとも近い市町村が担うべきだ」
  3. 地方自治体の成熟と条例の制定

 しかしながら、これらの改革には限界がある。例えば都市計画は建物の色彩や形状など所有権を規制するが、所有権については国が権限を保持し続けているため既存の枠組みでは都道府県、市町村には規制できない。
 一方、既存の枠組みを超えた非制度領域では多様な「まちづくり」が進んでいる。ここでいう「まちづくり」とは法制度にはない柔軟性や機動性をもって住民参加による地域の自発的ルール作りである。例えば制度の枠にとどまらない自治体独自の条例などである。NPOなどの活動に加え地方自治体の成熟が非制度領域を後押ししている。

 「私−私」の関係には一般的な市場メカニズムによらない私的な利害調整を通じた共同のルール形成の可能性がある。そういったものの累積がさらに「公−私」の新しい関係につながり、新しい公共性につながる。例えば、自分の土地ならばどう利用しても良いという絶対的土地所有権の観念が市民レベルから修正されていく可能性がある。実際にこういったことは集団営農など地方ではすでに起きている。今後の日本の都市づくりのポイントはこういったことが都市部でどれだけ広まるかである。それは自治体の成熟に加え、市民のサポート、合意が必要となる。

 地方の様々な主体の公共性=主張・意見が、地方の公共性=条例・政策となりその試行錯誤の結果、国の公共性=法律になる。つまり、地域からの公共性が日本の公共性を作るという土壌が準備されてきたことをお話してきた。コンサルタントの皆さんにはどれだけそのような深い仕事が出来ているか自問していただきたく、またそういった仕事を期待している。
















○質疑

質問者:
 実際にまちづくりに関わっていると町内会や自治会が形骸化していると感じます。地域から生まれる公共性にいたるまで100年くらいかかるのではと感じるのですが、いかがでしょうか。

回答:
 個人が公共性を考えて暮らしているかという「公共性なき私」の問題と、それを支えるコミュニティがどうなるかにかかっていると考える。
 「公共性なき私」については個人の意識を受益だけではなく負担を考えることに向けさせる必要がある。
 コミュニティに関して町内会が形骸化する一方でNPO,ボランティア団体は増えていること、加えてインテリジェンシーの高い市民が多く、また識字率も高いことから潜在能力は高いと考える。戦後、行政の手厚い施策がコミュニティを衰退化させていったが今後行政がいかにコミュニティを育てていくかにかかっている。
 都市づくりについては試行錯誤し、結果を分析し学ぶことが重要である。
 コンサルタントの皆さんには空間の設計ではなく活動を設計していただき、その主体となる人々の活動や暮らしのあり方について議論していただきたい。

(記録:(株)エルイー創造研究所)

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