愛知住まい・まちづくりコンサルタント協議会
2007年度総会&記念講演

【日時】 2007年5月18日(金) 14:00〜16:45(記念講演は15:00〜16:45)
【場所】(財)名古屋都市センター 大研修室

総会:正会員20社(うち委任状5社)、来賓(愛知県、名古屋市)他
記念講演:会員26名、一般(自治体関係者他)21名、全体で47名


◇総会

◇開会

◇代表あいさつ

  • (株)地域計画建築研究所名古屋事務所 尾関利勝代表よりあいさつ

◇来賓あいさつ

  • 愛知県建設部建築担当局  住宅計画課主幹 松井宏夫氏
  • 名古屋市住宅都市局住宅部 住宅部長    下田一幸氏

◇議案議決の件

  • ランドブレイン鰍フ岩田晴義氏を議長に審議。原案通り可決された。
  第一号議案 平成18年度事業報告及び収支報告の件
  第二号議案 平成19年度事業計画(案)及び収支予算(案)の件
  第三号議案 役員の選出の件

◇新代表・役員あいさつ

◇閉会


◇記念講演

 「持続可能な都市再生のための計画技法 −海外の諸都市の取り組みから−」
 
   村山顕人氏    

      名古屋大学大学院環境学研究科都市環境学専攻 准教授
    

1.はじめに

○自己紹介
 
  日本でいろいろなマスタープランやまちづくりの現場にかかわりながら問題点等を把握し、一方、修士課程の時からアメリカの都市計画や都市デザインについて研究している。
 日本の都市再生の主要課題は、魅力的な都市空間の創出を通じて人々の生活に貢献すること。日本の既成市街地は、一部を除いては、地区ごとに明確な将来像が描かれていない。地区ごとに将来像を描き、その実現にむけてハードおよびソフトの施策を展開することが重要である。
 ソフト・ハードの施策には歴史的建造物の保全・活用や老朽化・陳腐化した建物の更新、公園や歩行者空間の整備などが含まれ、こうしたことを計画的に、効果的かつ個性的にやっていく必要がある。ここで重要なのが、こういった都市空間の形成にはいろいろな主体が関わってくること。市民、企業、政府など社会を構成する多様な主体による都市空間の協働的・継続的マネジメントを可能とさせるために必要なことは何かということを議論していきたい。

  • ○目指したい都市空間

     
    一つはメリハリのある都市空間である。
      カナダのトロント都市圏のプランの中にでてくるダイアグラムにあるように、まずは自然とか農地を保全していくことが大切である。また、人口が増加する局面では市街地を拡大する必要があるので、市街地の周辺部では計画的な市街地拡大を行う。
     濃い紫は既成市街地を表しており、その中でも良好な市街地は維持管理していく。
     それから、既成市街地の中に、大規模工場等が別のところに移るなどして、広い空地が発生することがあるが、こうしたところでは、土壌汚染をきれいにしながら再開発をしていくことが主流になってきている。日本でもいろんなところで土壌汚染の問題がでてきているが、特に土壌汚染の処理を伴うため、少し複雑な都市再生が必要となる。
     トロント都市圏を例にとったがこういったことが重要と考えている。
     これは都市圏全体の話であるが、人口増加を受け入れる街の方では、一般に言われていることだが、自動車に依存しなくてもよい日常生活、快適な歩行者・自動車環境、賑わいのある街路、ヒューマンスケールと用途複合、魅力的な公共空間の創出、高質のアフォーダブル住宅の供給などが重要である。

    ○計画策定における現状の課題

      質の高い計画をつくるのは予想以上に難しい。教科書には、計画にこういう要素を入れるのが一般的であるとの説明があるが、実際に計画をつくるとなると難しい。
     現代の計画技法というのは、誰も体系化しておらず、大学の都市計画の講義でも体系的は扱われない。
     実際に現場に携わってみると、計画策定に費やされる期間とお金があまりにも少ない。
     本当は新しい様々な計画技法を駆使して計画を作成したいと思っていても、実際にはできず、質の高くない計画が策定される。これが、計画が軽視されるという悪循環につながっている。

    2.計画策定技法研究の基本的枠組み

     計画策定とは都市の現在、都市未来の状況を見据えながら、多様な主体の都市空間に対する要求を踏まえ、都市空間形成の目標・方針・施策を総括的に定める取り組みである。
     より質の高い計画を策定するためには、計画策定に費やす資金と時間を十分に確保することが必要である。ただしそれはすぐにはできないことで、特に研究者としてできることは、計画策定の技法を開発し体系化することにより、専門的で高度な技術と方法が必要なので、プランニングに必要な資金と期間を確保すべきだと発言していくことであると考えている。
     研究の基本的な枠組みを話すと、計画策定作業には3つの側面があり、それを支えている3つの技法がある。3つの側面とは、現状分析・将来予測、空間構想・空間構成、合意形成・意思決定である。これは、理念的に捉えたもので、実際の計画策定作業では、複数の側面が組み合わさっている。 
     現状分析・将来予測を支えているのが、現在及び未来の人口、経済、社会、空間等の状況を分析・記述する科学的技法である。空間構想・空間構成を支えているのが、様々な要求を両立させる空間的解決策を組み立てる創造的技法で、これはクリエイティブな部分であり、デザイナーが力を発揮する。そして、合意形成・意思決定を支えているのが、空間的解決策に関する多様な主体の合意形成と意思決定を適切に導く政治的技法である。
     続いて、計画策定技法を分析する枠組みを説明する。都市空間形成の目標・方針・施策を含む計画の最終案を導く「計画策定作業」は、複数の「作業単位」の組み合わせで構成され、各作業単位には、要素作業の一定のまとまりである「個別作業」とその結果として出力される計画案、報告書等の公開出版物である「中間成果」が含まれるものとして捉える。ここで、ある段階の「中間成果」は、1つ前の段階の「中間成果」と新しい情報の入力を前提とする「個別作業」の出力結果であり、この「作業単位」が繰り返されることにより、中間成果が進化し「最終計画案」になるものとする。
     この個別作業を支えているのが、計画策定技法である。ここで、「方法」とは「最終計画案を導くという計画策定作業の 目的を達成するための、複数主体の協働によって実施される1つまたは複数に渡る個別作業の手順、過程、段取り」、「技術」とは「ある単独主体によって実施される計画策定の個別作業をたくみに行うわざ、手法」である。

    3.名古屋都市圏の課題

     名古屋都市圏の課題は大きく分けて2つあると思われる。一つは名駅前の大規模再開発や建物更新の際に、ダウンタウン・プランが不在であるというである。もう一つは郊外部でスプロールが進んでいることである。
     先日、都市計画学会の集まりで最近できた3つの超高層ビルを見学したが、地上の空間を見てみると、たとえばモード学園とミッドランドスクエアの間の地上の歩行者空間、公共空間はあまり整備されていない。これらをどうやってつなげるかということについてなんら計画がなされていない。また、ミッドランドスクエアからルーセントタワーのほうに歩いてこようとすると、ルーセントタワーに隣接してガソリンスタンドがあることもあるが、歩いていて快適な空間ではない。
     地下は良く整備されており、特に名駅からルーセントタワーにむけて長い地下道をどのように楽しませるかということで、アートがあったり、光の色が変えられてあったり、工夫されている。また、ミッドランドスクエアの地下部分は、地下道の上を空ける形で、とても快適な空間となっている。
     名鉄百貨店の歩行者空間は敷地の中でうまく空間をつくっている。
     本当にマスタープランがないのか?ということで調べてみたら、名駅周辺都市再生事業促進協議会報告書というのがあり、アメリカのダウンタウン・プランとは異なるものである。とにかく、個別の事業を検討するために記述している。駅前シンボルゾーンとあるが、具体的にどのように整備していくかということについては書かれていない。
     一方で郊外部のスプロールについては、東京にいたころから愛知県のスプロールの話は聞いていたが、実際に来てみて驚いた。大学で実習として取り上げている西尾市の高台から見下ろしてみると戸建て住宅地で市街地が広がっている。また、自然や農地が残っているエリアに工場や研究所が開発されている。
     名古屋の市街地の一番端の長久手では、リニモが走っていて、長久手古戦場駅がまさに市街化区域と市街化調整区域の境界で、一般に市街地拡大は望ましくないと思いつつも、公共交通中心のまちづくりを進めていく上では駅周辺の高度利用が期待される。

    4.魅力的な都市空間を創出するための計画策定

    ○はじめに

      魅力的な都市空間を創出するための計画策定の例として、1985年に策定されたダウンタウン・シアトル土地利用・交通プランを見る。
      1985年に策定された、ダウンタウン・シアトル土地利用・交通プラン(LUTP)の策定体制は、計画提案を行う政策・評価室土地利用・交通プロジェクト・チーム、その市民諮問機関である市町ダウンタウン作業部隊、庁内調整を行う部局横断的ダウンタウン・チーム、込み入った調査を行う将来開発予測分析チーム及び密度・建物形態調査チームとその実務家諮問機関である技術諮問委員会で構成される。
     計画プロセスを分析し先ほどの枠組みにはめてみると、1980年に調査が実施され、翌年に目標に対する意見が収集された。それに基づいてガイドラインが作成され、計画の内容としてどうしても満たさなくてはならない内容や、どうしても避けなければいけない内容をあらかじめガイドラインに記述している。
     個人や団体からの代替計画案の収集を81年と82年の2ヵ年をかけて実施し、それまでの成果を踏まえ1982年に始めて総合的な計画案を作成した。
     これで計画づくりが終わったわけではなく、82年のプランにもいろいろ問題が積み残されていた。そのため、その内容についてパブリックレビューを実施し、一番の論点になっていた密度と建築形態について調査が行われた。
     これら2つの成果を踏まえながら83年にLUTPの素案をつくり、ワシントン州の法律で定められている環境影響評価を実施した。環境影響評価についても市民へのレビューが実施された。
     その後、市長案ということで、環境影響評価と合わせて84年に提示され、その後議会でもまれて最終的に85年に計画が完成した。

    ○調査の実施

     
    まず、調査の実施。結果は詳細なレポートにまとまっており、3つの柱がある。一つ目は既存の目標・方針・計画の分析である。それまでダウンタウンではいろいろ計画が策定されていたので、それを無視することはできず、プランがどのぐらい実現されたのか、実現されていないのかが評価された。
      二つ目は、土地利用・都市デザイン、交通、住宅、居住サービス等の現状と課題に関する調査。いろいろな客観的データがまとめられた。
     三つ目は、将来開発予測分析。これが実はその後の計画策定に大きく影響を及ぼす。まず、開発の受け皿の方で、土地利用の現状を把握する。最近建てられた建物や歴史的な建物は開発されないものとして、逆に空地や低未利用地、老朽化した建物については開発の可能性が高いと判断する。一方で、ダウンタウン全体でこれから人口や就業者がどのくらい増加するかというマクロな分析を実施する。そして、その増加分を配分する。その結果、2つのシナリオが提示された。非制約シナリオというのは、既存のゾーニングのもとで開発をした場合。85年のプランが作成される前の土地利用規制をそのままにしておくとどういう形態の街になるかが示された。実はこれが警告となり、プラン策定の意義が確認された。一方で、既存のゾーニングをベースに住宅、歴史的な建物の場所では開発を行わないというシナリオが作成された。

    ○課題・目標に関する意見の収集

      市民参加により課題や目標に対して意見収集を行い、最終的にはニュース・レターという形式で意見のまとめが公表された。
     複数のワークショップを開催してダウンタウンの課題を確認する。そして、市長主催のパブリック・フォーラムを開催し、300人ぐらいの市民が参加した。
     一方で、ダウンタウンについて考えている団体や個人が代替方針案を作成した。

    ○ガイドラインの作成
     調査レポートと課題・目標に関する意見をベースに代替計画案のためのガイドラインが作成された。

    ○代替計画案の募集・評価・選択

      代替計画案は広く一般から募集され、合計23の団体や個人から代替計画案が出された。このうち、3つは市役所の案であり、その他、建築家協会や商業者・ディベロッパーの集まり、市民団体、芸術系の団体などから提案が出された。
     これらの代替計画案についてLUTPチームが分析を行った。実際、計画提案書をみただけでは十分に分析できないため、「マラソン・セッション」というものを開催し、代替計画案を作成した主体を招いて質疑応答を実施した。その上でテーマを土地利用パターン、交通、都市デザインに分け、資料として整理した。その後、5ヶ月間にわたり代替計画案の評価・選択を実施した。

    ○1982年計画案の作成

      15の代替計画案を分析し、また、これまで実施してきたワークショップやフォーラム、ガイドライン、市役所内部で検討した成果を組み合わせ、共通のテーマで統合し、5つの要素、つまり交通量に基づく土地利用の決定、用途複合の奨励、自然的・人工的特徴の継承、地区間のつながりの強化、歩行者環境の重視を原則として1982年計画案が導き出された。
     具体的な土地利用規制としては、土地利用区分それぞれに対して容積率、建物高さ、地上階用途要件、街路壁・壁面後退など細かなルールが策定された。

    ○パブリック・レビューの実施と密度・建物形態調査の実施

     
    土地利用規制を決めるのはいいが、ダウンタウンの暮らしやすさはどうなるのかという議論や、住宅と社会サービス、公共交通、ウォーターフロントの扱いなどいろいろな意見が出てきた。市民からでてきた意見もあるし、市長の諮問機関からでてきた意見もあり、このまま計画案を押し通すわけにはいかず、もう少し進化させるためにパブリック・レビューと密度・建物形態に関する調査を行った。

    ○LUTP素案の作成と環境影響評価の対象

     その結果、最終的に4つの案について考えてみようということになった。
     4つの代替案が環境にどのような影響を及ぼすのかについて、きちっとした評価を実施し、その中で一つの案を決めていった。
     評価項目として挙げられていたのが、将来の土地利用、人口等、都市デザイン・美観として街路景観・歩行者アメニティ、対岸から見たスカイライン、ダウンタウンから湾への眺望など、その他、財政やエネルギー、光害などである。このような項目について評価をしていき、最終的に一つの案に絞り込んだ。

    ○LUTP市長案及び環境影響評価書最終版の作成

      選ばれた案については、50回を超えるパブリックミーティングやフォーラムなどが開催され、土地利用規制について細かい調整が行われた上で、最終案としてまとめられた。

    ○老朽化したアラスカン・ウェイ高架の撤去と水辺の再生の例

     LUTP策定後、20年ぐらい経過し、担当者に話を伺うと、80年代に実施された多主体参加型の計画策定プロセスは、今でも生きていた。それが、老朽化したアラスカン・ウェイ高架の撤去と水辺の再生の例である。
     ダウンタウンの水辺に1950年代に建設された高架の幹線道路があり、ダウンタウンを通過する交通量の約25%を受け持っている。
     地震が発生した際にこの道路は構造面での問題が生じた。一方、ダウンタウンを支える護岸壁は木でできており、その木から虫が発生し腐敗してきたため、これを取り替える必要があった。これらの問題に対し、5つの代替案が検討された。詳細は割愛する。
     高架の撤去と護岸壁の取り替えを契機として、ウォーターフロントの空間をどう再生できるかについて、検討が始まった。セントラル・ウォーターフロント・コンセプト・プランの策定である。このプラン策定では、80年代と同様に、いろいろな団体から代替案を募るという方法がとられた。
     2004年行われたシャレット(集中的・徹底的なデザイン・ワークショップ)では、全部で22のグループがセントラル・ウォーターフロントの将来について提案をまとめた。その中には、建築家、都市デザイナーなどの専門家もかなり入っていて、完成度の高い提案が多かった。これらの提案内容についてマトリックスが作成され、それぞれの案がどのような内容になっているのかが分析され、最終案に組み込まれた。

    5.持続可能な都市圏を形成するための都市形態の検討

     南カリフォルニアという地域は気候が非常に穏やかな地域で、多様な文化、強力な経済があるため、2004年から2030年までに人口が約630万人増加し、2300万人ぐらいになるといわれている。そして、この人口増加により、交通渋滞が倍増し、大気汚染がますます悪化すると予想されている。
     そこで、南カリフォルニアの成長ビジョンが策定されることとなり、結論として、「2%戦略」が打ち出された。これは、対象地域の面積2%に相当し、公共交通サービスが提供される拠点や軸を高密度化することにより、自動車台数の増加を抑制しつつ、成長を受容するというものである。
     様々な利害が錯綜する都市圏全体を対象とする南カリフォルニア成長ビジョンで提示された都市形態が、どのような情報を基礎にどのように検討されたのかについて調査を行った。
     成長ビジョン策定の基礎となった情報はこの通りである。
      このうち、成長ビジョンというのは大まかな原則で、ごく一般的なことがかかれている。2010年から2030年の就業者数及び世帯数の予測が行われ、アンケートで具体的な施策の支持状況が確認され、ワークショップで600万人の居住者と300万人の就業者をどこでどのように受容するかについて検討が行われた。
      ワークショップにおける成長配置パターンの検討では、地域全体、サブ地域、特定地域の3つの異なるスケールの地図が用意された。
      まず、成長が起こるべきではない、つまり、居住者と就業者の成長が受容されるべきでない区域が特定された。これは、保全すべき河川やトレイルの軸、環境的に影響を受けやすい区域、その他の重要な自然環境であった。
      その上で、成長配置パターンが検討された。様々な種類の開発タイプを表すチップをベース・マップに配置することにより、住宅と雇用の成長の配置パターンを検討した。各チップには、南カリフォルニアの典型的な開発をモデルに、自動車指向から歩行者指向まで、固有の開発パターン、世帯数と就業者数、商業・業務・住宅の組み合わせといった要素が与えられた。
      これらのチップを何の手掛かりもなく選定して必要な世帯数と就業者数の成長を配置するのは困難なため、4つの「チップ・セット」が用意された。各セットは、14種類の開発タイプを表すチップの異なる組み合わせで構成され、開発の質や再開発の量といった面で異なる成長受容方法を表現していた。
      参加者は、こうしたツールを使いながら、低密度対コンパクトな成長、再開発対新規開発といったトレード・オフについて議論しながら、学習していった。土地利用と合わせて、交通の諸課題も検討された。
     この他、土地利用・交通統合モデルによるシナリオ分析等も行われた。
     このように、成長ビジョンの原則から出発して、アンケート、ワークショップ、モデルによるシナリオ分析を行って、具体的な都市形態のビジョンである「2%戦略」を導いたのだが、そのとりまとめ作業の詳細は、公開されておらず、この辺の解明は今後の研究課題である。

    6.計画策定技法の開発・適用に向けて

     まとめに代えて、今後の議論のための素材を提供したい。
     まず、まちコンの会員企業が駆使している最新の計画策定技法について、是非、教えて頂きたい。企業秘密の部分もあるかと思うが、計画策定技法の開発・体系化につながる。
     そして、計画策定技法に関する情報をどのように蓄積・共有することができるか。個人的には論文等を発表しているが、それだけでは、計画策定技法の普及になかなかつながらない。
     また、大学にいる者としては、計画策定技法をどのように教育していくかが大きな課題である。
     最後に、各コンサルタントの強みを活かして、複数のコンサルタントが共同でンサルティングする可能性はないか。

    ○質疑応答

    ●ポートランドの場合、現在ゾーニングをして各ゾーニングにデザイン・ガイドラインを定めて実施している。それらとダウンタウンプランとはどのような関係になっているのか?

    →デザイン・ガイドラインについては、シアトルはポートランドよりも後発であったようである。
    ポートランドの場合、まず、都心部のプランが策定されて、そのあとに地区ごとに個性を活かしたまちづくり、地区レベルの検討が行われた。その中で、地区レベルでプランを実現するためのデザイン・ガイドラインが定められた。
     1990年代、ワシントン州で成長管理法というものができた。その中で都市計画のシステムが大きく変わった。シアトルでは1994年にシアトル市全体のマスタープランが作成され、その中でアーバンビレッジ構想という、拠点的なところを積極的に開発し、そうでないところはなるべく保全するという方向性を打ち出している。
     その流れで、シアトルでは、地区レベルの検討が1990年代後半に活発になり、地区のデザイン・ガイドラインも策定された。

    ●今日お話を聞いて少し感じたのは、技法の話しや市民参加等の話があったけれども、日本ではそれ自体が存在していないということを非常に感じていて、社会経済的な話だとか、プロフェッションのあり方とか、そこでの共通のあり方だとかについては密接にリンクしているから技法が成立するのではないかと感じた。

    →アメリカ西海岸は市民の都市計画に対する関心が高く、80年代のプランを作る前から市民活動が盛んだった。1960年代のアーバン・リニューアルで、歴史地区を近代的なビルに再開発しようというプランが出たとき、市民が歴史保全運動を展開し、再開発を阻止し、歴史保全条例の制定につながった。
     80年代にプランを作成した時には15の団体が自らの提案を出すという環境が存在していた。市役所としてはこういう状況をうまく活用して計画策定プロセスを構築しており、このような状況は今もかわらない。
     プロセッションについてはそのことを深く研究していないので的確なことはいえないが、市役所の中にプロがいるということが印象に残った。日本の役所では、一般的に、人事異動が頻繁にあるため、そのような人はなかなかいない。市役所の人間がコンサルタントになったり、コンサルタントが行政に入ったりと、人材の交流もある。
     また、プランニングにかけるフィーが日本と全然違う。シアトルの場合、年間に約1億の費用をかけている。日本のマスタープランの場合とは桁が2つ違う。無駄な公共事業よりもプランニング、ソフトにお金をかけている。
    ・また、大手の企業が地域貢献として空間整備にお金を出している。例えば、シアトルはスターバックスの本社があるが、同社は、ダウンタウン内のある街路の再整備のスポンサーになっていたりする。(村山准教授)

    ●シャレット2004の中でものすごく沢山のグループが参加しているが、参加している人は普段はどのような人達なのか?また、主催はどこか?開催費用はどこからでているのか?教えていただきたい。

    →セントラル・ウォーターフロントの場合、日本で言えば都市整備部の中にシティ・デザインという都市デザインを専門に扱う部署があり、そこが中心となって実施している。参加団体にはNPOや企業団体、任意の団体などいろいろあるが、普段からセントラル・ウォーターフロントについて検討しているわけではない。ダウンタウン・シアトル・アソシエーションというダウンタウンの企業団体には、ディベロッパーも入っている。そういう人たちがこのような機会に参加したりする。

    ●社会制度、都市計画の仕組みの違いがある中で、日本の中で街の再生を実施する場合、補助金で誘導するという制度がかなりある。このような助成制度が街づくりをきめていくようなケースが増えるのではないかと思うが、先生の研究課題の中で日本特有のことかもしれないが、その部分がかけていて、日本の場合はそこの部分を入れないと技法として見られないのではないかと思う。

    →日本はかなり国の補助事業があり、小さな町で調査をするにしても、何かをつくるにしても補助金をもらう必要があり、補助金獲得のためのプランニングになりがちである。
    アメリカでは、国からの補助金は少ない。地域再生のための補助金はあるが、比較的に自由に使えるようで、地元の創意工夫が可能である。日本に比べて国等の関与が少ない。プロジェクトへの関与が少ない。

    ●たとえば固定資産税の一部について再開発事業を実施したときにかなり日本の中で非常に規定されていることが多い。そういう視点の分析をしていただきたい。

    →今後の研究課題とさせていただきたい。

    ●これは大事な議論になるところで、少し時間をかけて何回かディスカッションしなければいけないと思う。日本の場合、明治維新、戦災復興型、補助金だよりという中で、物事の決め方も中央集権型、アメリカ、ヨーロッパは随分昔から根付いていて、物事の決定の仕組みが分権型・自治型になっていて税制も違っている。シアトルでもそうだが、BIDなんかいっぱいやっている。これはどういかというと州法に基づいていて、ある地区の合意が取れれば特別に税を徴収してそれを地区に帰す。その前提は社会的な価値観として、ものの価値が上がるということが絶対よしとされている。TIFも同じである。日本の場合、とっておいた税金は後で還元するという発想である。アメリカは将来地価が上がることを前提にしており、それを公債としてお金を取っておき、それを再開発のプランニングに回していく(われわれは主張しているが財政は認めないという例である)。プランニングのエージェントのところやミッションのところでは潤沢にお金が使え、お金には困っていない。先ほど先生がプランニングにお金が使えるといっていたが、日本ではお金がつかえない、日本では入札ということで20年ぐらい前に比べれば1/3〜1/4ぐらいで日本のプロフェッションはプランニングをやっていて、長期的な視点がない。
     たとえば、市街地再開発だけでいうと、敷地の共同化はやっているけれども本当に都市の再開発をやっているか?法律は都市計画に基づいた都市計画法でやっているけれどもそうなっていない。ロサンゼルスなんかは20年、30年 永遠にやっている。
     日本の都市計画は今後、どのように考えるべきなのか、それからかつて日本の場合、住宅地区改良事業などはあったが消えてなくなってしまっている(まだある)。都市、住宅を専門とする公共的なエージェントがあったが、それがだんだんわからなくなってきている。民活、民活といわれているが、そういった部分が公共的にどういう風にコントロールしていくか?それらは決定のシステムもあるし税制もあるし、全部からんでくるので簡単にはいかない。日本のローカルなあり方を考えていくべきではないかと思う。

  • ▲活動記録に戻る▲
    ▲トップページへ▲