2006年度3月交流会
(愛知まちコン・名古屋都市センター合同勉強会)

まちづくりと連携した
名古屋市の総合交通体系を考える


 “公共交通網の整備促進と自動車交通の抑制”この方針は昭和52年の名古屋市基本構想および昭和55年の名古屋市基本計画において交通政策の基本的な方向として位置づけられ、これまで変更されることなく継承されてきました。

 しかし、交通渋滞の慢性化や交通事故の増大、違法駐車、大気汚染や騒音などの解決すべき課題は相変わらず山積し、さらに、地球温暖化防止の観点から、交通分野においてもCO2削減が差し迫った政策課題になっています。また、公共交通利用は自動車利用の増加傾向とは対照的に漸減しております。

  総合的な交通政策の展開が求められる中、名古屋市交通問題調査会では、都市構造と交通、ライフスタイルと交通行動の関連などに着目し、まちづくりと連携した総合交通体系のあり方を検討し「なごや交通戦略」(平成16年6月)として提案されています。

 今回の勉強会では、この名古屋市交通問題調査会の会長を務められていた竹内傳史先生をお招きし、名古屋市の交通戦略をはじめ、現在の国における交通行政の動向や海外の事例等についてのお話しをお伺いするとともに、このテーマについて多様な参加者と意見交換を行い、今後の名古屋市の交通のあり方について意見交換を行いました。


■日時

  2007年3月1日(木)13時30分〜16時20分

■場所

  (財)名古屋都市センター 14階 第2会議室

■プログラム

(1)あいさつ
(2)趣旨・プログラム説明
(3)講演「まちづくりと連携した名古屋市の総合交通体系のあり方」
講師:竹内 傳史 先生(岐阜大学地域政策学科教授)
(4)質疑・応答、全体討議
(5)まとめ


■参加者

  愛知まちコン 17名
  名古屋市 8名


■講演概要

  「公共交通システムが導くコンパクトな街づくり 〜ここまで来た、名古屋の総合交通体系論議〜」           講師:竹内 傳史 氏(岐阜大学地域政策学科教授)

●はじめに

  • 1980年頃より、交通施設づくりから交通問題の解決へと研究内容が変化してきた。
  • まちづくりに対する交通計画からのアプローチは、近年ますます重要性が高まってきた。
  • 社会に対して、土木以外の分野から、“いかに都市の人々の生活を支えるか”という視点にたった計画学の理論の育成が求められている。
  • コンパクトなまちづくりや広域地方計画作りにも、公共交通が大きな役割を果たす。

●1.公共交通指向の街づくり(TOD)

  • TODは「Transport Oriented Development」の略で、“公共交通志向のまちづくり”のことを指す。近年では、初めのTを「Transit」と考える場合が多い。
  • TODが「交通まちづくり」と表現される場合もあるが、この言葉は“交通のためのまちづくり”のような意味にとられかねないので、あまり適確な表現ではないように感じている。
  • カナダのトロント市では地下鉄の駅を中心として都市が形成されている。ブラジルのクリチバ市では、バス専用レーンが設けられ、バス交通が極めて発達している。このように、都市計画システムに基づきコントロールされたまちでは、公共交通を活かしたコンパクトな都市形成がなされている。
  • TODを進めることが、@都市軸の形成(鉄道、LRT、バス)、およびA都市拠点開発・整備の核に寄与することが効果として考えられる。

●2.国土交通行政の最近の動向(地域公共交通活性化事業制度創設の動きなど)

  • 国土交通省でも、これまでの縦割りの弊害が徐々に解消され、「交通整備」と「まちづくり」のシームレスな取り組みが可能になってきた。
  • 背景には“(事業者)監督官庁から政策官庁へ” (旧運輸省)、さらに“運輸・道路行政から街づくり行政へ”の転換を図る国土交通省の姿勢が伺える。
  • 新たな法律では、各地方自治体に「地域公共交通総合連携協議会」を設置し、「地域公共交通総合連携計画」の策定することを支援し、この計画策定や新たな輸送サービス導入に対して国が支援を行うことなどが、盛り込まれている。
  • また、例えば地方鉄道の再生については、鉄軌道などのインフラを公共が保有し維持・管理するとともに、列車の運行や安全管理などを事業者が行う「上下分離」方式などの支援の考え方も示されている。
  • 小泉政権における極端な市場原理主義・事業収益主義のもとで、公共交通の規制緩和が進み民間交通事業者のサービス供給義務がなくなり、公共交通サービスの切り捨てが進んだ。
  • 地域住民の生活を支えている公共交通に対して、公的資金を投入することの意義を再度問い直す作業が必要である。
  • 中部地方交通審議会が平成17年度に答申した『中部圏における今後の交通政策のあり方』では、「〜みんなで“創り・守り・育てる”公共交通〜」というテーマを掲げ、行政と住民等、事業者、住民のそれぞれの役割とパートナーシップの必要性、さらには地域住民の「自覚ある交通行動」の必要性を明確に示した。

●3.「市民の足を守ること」が自治体の責務に

  • これまでは、公共交通機関が民間事業として実施し、国は免許・監督、自治体は補助で側面支援していたが、今後は「市民の足を守ること」を自治体の責務として明確に位置付け、公共交通サービスの供給体制を政策的に確保し、地域住民の生活を支えることが求められている。
  • 「これからの地域交通」(2005年、財団法人運輸政策研究機構)でも、市町村がやるべきこととして、「地域づくりの方針」を踏まえて「交通の将来ビジョン」を提示すること、その交通のビジョンに沿って地域交通の計画作りを主導し、実現化を推進することなどを説明している。
  • 計画の策定にあたっては、従来は必ず需要予測を行うことからスタートしたが、需給調整が不要になった現状では、むしろ市民の潜在的なニーズ(質および量)がどのように分布しているのかを把握することが重要になってくる。
  • これまでの地域づくりで培ったノウハウや手法を活かして、新しい計画づくりの技術を開発しなければならない。コンサルタントの果たす役割は大きい。
  • 県は、単独市町村だけでは検討が難しい地域などにおいて広域交通圏を設定するなどの指導を行うことが役割となっている。
  • しかしながら、「将来の名古屋圏における鉄軌道を中心とした公共交通のあり方」に関する議論では、事業者・各県・名古屋市ともに、現段階における見直しの必要性については消極的である。
  • 成熟社会におけるコンパクトな街づくりの必要性から説き起こすことが必要である。

●4.十年余先取りしていた名古屋の総合交通政策のいま

  • 名古屋における交通問題の議論は、他都市よりも十数年先を進んでいたと自負している。
  • 交通政策の実現化方策をまとめた「なごや交通戦略」(名古屋市交通問題調査会諮問第2号答申、2004年)では、交通政策を検討する部会と、市民参加の部会により策定した。
  • 「市民の自覚ある交通行動」を作り出すことが実現化のカギとなることから、名古屋市のゴミ減量作戦の取り組みと成果は、交通戦略策定の1つのきっかけにもなっている。
  • @鉄道や主要な道路網の整備促進、A鉄道やバスによるサービスの充実に加え、B交通需要マネジメント(TDM)への挑戦を掲げ、公共交通と自家用車の割合を“3対7から4対6へ” という数値目標を掲げている。
  • 事前の需要予測調査に合わせた計画ではなく、需要そのものをコントロールすることを目指した。過剰なコントロールによる“抑圧”ではなく、野放しになって拡大したピーク時の需要を他の「時間的」「空間的」にゆるやかに移行することを考えた。
  • 交通戦略を体系化し、3つのパッケージプログラム(@都心パッケージ・A駅そばパッケージ・B広域パッケージ)に集約し、それらを「交通エコライフ」という目標でつないでいる。
  • 「エコポイント」や「ちょい乗りシステム」などで、公共交通に慣れ親しんでもらったり、利用の楽しみや社会環境への貢献を実感してもらう取り組みなども盛り込んでいる。
  • しかし、ここ数年間の小泉政権時代には、事業経営至上論が公共交通事業の廃止やサービス低下を加速させてきた感がある。
  • 地下鉄桜通線では、経営改善を目的としたサービスの切り捨てが行われ、現在は10分間に1本間隔で運行されている。これでは利用者に期待されるサービス水準を大きく下回っており、地下鉄本来の目的が果たされていない。
  • 近年、インフラ整備に対する消極姿勢が続き、こうした逆流の潮流に対してTDM作戦は施策自体が悪影響を受けて萎縮してきた。交通戦略策定から2年半経った現在でも、あまり大きな進展が見られない。
  • 今後、改めてまちづくりと交通の連携が求められており、そのためにも地域公共交通計画(LTP)の策定が必要である。
  • ただし、実際のまちづくりの現場では、まちづくりの地域エゴが交通プロジェクトの足をひっぱることもあり、成熟した市民の自覚ある参加と行動が重要である。


■質疑・応答及び全体討議の概要

  • 小牧市の桃花台線については、今のインフラを有効活用して運行を再開させたいという想いが地元で強く、新たに勉強会がスタートしている。今後は、市や県が意欲を示し、必要に応じて高コストのシステムの見直しなどを検討していかないと、再開は難しい。
  • 長期的な視点から交通インフラを考えると、あおなみ線や東部丘陵線(リニモ)なども、沿線や両端に集客の核となる拠点を整備することや、名古屋市内との接続利便性を高めることなどの改善が必要である。
  • 小牧線は、地下鉄とつながったことで利用者が約2割増加したという。
  • 緑豊かなトロントの景観を手本に、名古屋駅や栄駅などの交通結節点においても潤いのある整備が求められる。ただし、細かいみどりがまんべんなく広がっている状態では、潤いを感じられない。緑化する場合には、緑の誘致距離を意識し、ある程度固まった面積・ボリュームで整備する必要がある。
  • 具体的な公共交通政策ツールを持たず、財政的に厳しい状況にある小規模の市町村では、交通マスタープランを策定してもその後の具体的な展開が描けないために、取り組むことに消極的になることを懸念する意見も聞かれる。これに対しては、単独の自治体ではなく、広域の交通圏で捉えることが重要であり、中核となる自治体の役割と県の指導性が問われる。
  • 事業の継続が困難になっている鉄道を維持するための方策や、地域ニーズに応じた交通システムの提案などを、交通マスタープランに盛り込んでほしい。「バスサービスハンドブック」なども参考にしてほしい。
  • コミュニティバスは、サービス水準と経営コストのバランスの判断が難しく、サービス・コストともに拡大する危険もある。市民の納税者感覚が成熟してこないと、外部のチェック機能を働かせることも難しい。

 

   
(全体記録:池田哲也/社団法人地域問題研究所)

▲活動記録へ戻る▲
▲トップページへ▲