2005年度4月交流会
住民参加による歴史的街並みの保存と活用事例
五個荘町と近江八幡市を訪ねる
【日時】 2006年4月20日(木) 8:30〜18:30
【場所】滋賀県五個荘町(現在:東近江市)、滋賀県近江八幡市
【参加者】 17名
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■行 程
8:15 名古屋駅太閤通口 集合
8:30 出発
(移動・バス)
10:30 五個荘町到着
・五個荘観光ボランティアガイドの案内による町並み見学
・金堂町並保存会会長 西村實氏による講話
11:30 五個荘町出発
(移動・バス) 近江八幡市へ
12:00 昼食(郷土料理「喜兵衛」)
13:00 近江八幡市商工観光課(前文化政策課) 吉田正樹氏との意見交換
(かわらミュージアム内にて)
14:30 八幡堀界隈の町並み見学
16:00 出発
(移動・バス)
18:30 名古屋駅太閤通口 到着・解散
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1.五個荘町金堂
○五個荘町金堂の町並み
五個荘町金堂は、湖東東平野の中央部にあり、近世には陣屋を中心としてその三方に寺院が配置され、そのまわりに民家と田園が広がる農村集落である。
金堂の町並みは、平成10年12月25日に重要伝統的建造物群保存地区(以下、伝建地区)に選定された。選定理由としては、「古代条里制地割(古代の土地区画整理事業による土地割り)を基礎に大和郡山藩の陣屋と社寺を中心に形成された湖東平野を代表する農村集落で、加えて近江商人が築いた意匠の優れた和風建築郡の歴史的景観を保存し価値が高い」とされている。
町並みの特徴としては、まちのいたるところに水路がめぐらされ、その水路の中には、白壁の色と同じ色の水芭蕉の花が咲き、また、色とりどりの鯉が泳いでいる。水路の水は、家の庭に引き込まれ、洗い物などに利用されている。また、家の外壁には、農業用に使われた田舟の板をリサイクルして用いられており、白壁を守る工夫が見られるとともに、壁の白と船板のコントラストが近江商人の美意識の高さを表現している。
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☆五個荘金堂の町並み |

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○金堂まちなみ保存会会長 西村實さんの講和(概要)
- 平成7年に、「先祖からの歴史遺産を残そう」という住民の話し合いの中で「町並み保存会」が立ち上げられ、3年後の平成10年12月には伝建地区に選定された。地区面積は約32haであり、195件の保存対象物件の8割同意を得た後、全国で50番目となる伝建地区に選定された。
- 平成11年度から建物等の修理修景事業を進めている。
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建物の保存修理費用補助に関しては、主屋は総費用の8割とし、限度額500万円である。付属屋は、総費用の8割とし、限度額は400万円までである。
- 建物等の修理修景事業費については、年間2〜3千万円の予算で、塀等の工作物を含め、年間で約11件程度を実施している。
- 近年では、防災に関する補助も受けており、平成10年からの7年間に、修理修景基準に見合った新築の建物が2件、改修も含めて20件程度の実績を積み重ねている。
- 今後は、建物の保存とあわせて心の保存にも努めたい。
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☆金堂まちなみ保存会会長の講話 |
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2.近江八幡
○近江八幡市八幡堀周辺の町並み
八幡堀は、豊臣秀次による水運への利用などにより、近江八幡市の発展の基礎となった。しかし、高度成長期、モータリゼーションの進展等に伴い、八幡堀に関する市民の関心は薄らぎ、堀は「ドブ川」となった。その結果、八幡堀は公害の基となり、埋め立てて道路や駐車場にする声が次第に大きくなった。そのようななか、青年会議所が「堀は埋めたてた瞬間から後悔が始まる」のスローガンを掲げ、市民が立ち上がり、堀の清掃活動に取り組んだ。こうした市民の情熱が、行政を動かし、八幡堀全面浚渫工事を実現させた。これを引き金に、文化遺産を守る組織「よみがえる近江八幡の会」が生まれ、町並み保存運動、八幡塾構想、商業博物館構想、年金保養基地の誘致へと発展していった。
八幡堀は、平成3年4月30日に重要伝統的建造物群保存地区に選定された。現在、様々なかたちで市民によるまちづくり活動が展開されており、また、写真や絵画の愛好家などが数多く訪れ、時代劇のロケ地としても頻繁に使用されるまでとなった。
なお、平成17年9月1日には、景観法にもとづく景観計画を施行している。
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☆近江八幡市八幡堀周辺の町並み |

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○近江八幡市商工観光課 吉田正樹さんの講話
- 地域をつくるのは誰であるか。これまで、地域をこわしすぎてきた。住民は、観光開発や工業開発のまちづくりを望んでいるのではなく、少しでもよいから元のまちの姿に戻していくことで、自然や文化、人間の本質的な価値をあらためて見出すことを望んでいるのではないだろうか。
- これからのまちづくりには、民と民をつなぐネットワークが必要である。行政を介さなくても、民と民とによるまちづくりのあり方が求められている。市民とともにコンサルタントがまちづくりを先導し、そのサポートを行政が行うことが、今後、一層必要である。
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☆吉田さんの講話 |

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○意見交換
Q: |
まちづくりを本気で議論できる場所をつくるコツについて |
A: |
住民に役割を与えることが大切である。例えば、交通安全のために、ガードレール設置の要望を市民から受ける。この場合、行政は、白色のガードレールを設置し、市民へこう話す「白色よりも、町並みや景観のことを考えると茶色の方が良いよね」と。しばらくすると、ガードレールを住民が茶色で塗りだす。こうした、何気ない仕掛けにより、住民が自らの地域に愛着を持つことができる。要望を受け、全てを行政で進めてはいけない。また、仕事ではなく、一人の市民としてまちづくり参加するなど、市民と同じ立場に立つことが、信頼を得る近道である。
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Q: |
市民のまちづくり活動を継続させるコツについて |
A: |
自治会長という理由だけで、市民のまちづくりのリーダーとしないこと。地域住民に本当に信用されている人をリーダーとすることが重要である。
また、現実問題として、景観にはお金がかかる。お金をかけなければ守ることができない。そのため、各種のまちづくりの賞に募集する。入賞すれば、補助を受けることができ、住民のモチベーションも上がる。このような取り組みも必要である。
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Q: |
行政におけるまちづくりキーマンの育て方について |
A: |
モチベーションを自らに問うことと、スポーツや読書等、何でも良いので自分のフィールドを持つこと。そして、そのフィールドのなかで自らを成長させることが大切である。
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Q: |
近江八幡の八幡堀のように、地域にまちづくりの資源がない場合に、上手にまちづくりを進めるコツについて |
A: |
景観を守るための活動を続けなければ、如何なる「遺産」も「遺物」になってしまう。大切なことは、住民一人ひとりに役割を持ってもらい、まちづくりに参画してもらうこと。ある人は、「体」をつかってまちづくりを進める。またある人は、「お金」をつかってまちづくりを進める。これらが難しい人は、"まちが良くなりますように"と「祈って」もらう。一人ひとりにあった役割分担が大切である
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Q: |
企業がまちづくりに参画するためのコツについて |
A: |
企業には、良いもの(製品)をつくることをお願いしている。企業としては、良いものをつくって、社会貢献することが1番である。
また、企業には、まちづくりへの「お金」を負担して頂くのではなく、地域の祭りの際に「人」をだして貰えるようにお願いしている。
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3.視察の感想
- どちらのまちも「花」があると良いと感じた。「花」があると、それを手入れしている人の姿が感じられ、町並みがさらに良くなるのではないか。
- まちづくりは、まちへの愛である。自らの仕事のなかで、そのまちをどれだけ愛せるかが課題である。
- 八幡堀に、絵を描く人が集まっていた。まちのなかに絵になる風景があることは素晴らしいことである。
- 視察研修の意味は、そのまちを知るということと、まちづくりに携わった人々から刺激を受けるということである。このため、今回、吉田さんから多くの刺激を受けたことは、有意義な視察であったと感じている。
- まちの主役や関係者を、どれだけまちづくりに巻き込めるかが、大切であることを再認識した。また、隠れて善意を行っている人に光をあてることなど、まちづくりが上手に進むコツを聞くことができ、良い視察であったと思う。
- 五個荘町(保存のまち)と近江八幡市(攻めのまち)と対照的なまちづくりを視察できたことで、勉強になった。
- このような視察で得た経験を踏まえ、新しい提案を継続していくことが必要であると感じた。
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(記録:桑嶋博史/中央コンサルタンツ株式会社)
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