今回は、コーポラティブハウジングをはじめとして、「地域づくり」「コミュニティづくり」でご活躍されている、株式会社日本設計の黒野さんを囲んで、お話をお伺いいたしました。
黒野さん自らが参加し、住んでおられる十軒長屋のコーポラティブハウス「木附の里」や高蔵寺ニュータウンでの「まち育て」活動などについて、写真を使った楽しいお話を頂きました。
お話の後は、まちの活性化や手法としてのまちづくり活動と、自分が楽しむまちづくり活動、それぞれの良さや課題について、参加者からそれぞれの意見が出されました。意見交換の時間として1時間を設けましたが、その時間制限いっぱいまで活発な議論がなされました。
以下、交流会記録を掲載いたします。
「コーポラティブハウジングとニュータウンの『まち育て』」
株式会社日本設計 名古屋支社建築設計部 黒野 雅好 氏
紹介事例である「木附の里」は長屋式のコーポラティブハウスで、ご本人は設計者の立場ではなく、住人という立場で参加されたものです。その木附の里に住む他の方々と築き上げたコミュニティの様子を紹介していただきました。
黒野さんご自身はコンサルタントとしての知識や経験を抱負に有されているものの、仕事という観点ではなく、コミュニティづくりに『住人として』参加された経験を中心に、楽しくお話を進められました。
内容は、お住まいの「木附の里」および高蔵寺ニュータウンにおける「まちそだて活動」の経緯についてであり、コーポラティブハウスの市場といったようなマクロ的視点に立つものではないと断られてから、事例紹介を始められました。
「木附の里」は、春日井市高蔵寺ニュータウンの端にあたり、JR中央線沿いに位置しています。古い里山集落もあり、新旧が入れ混ざる田園地帯です。近くには自衛隊駐屯地や弾薬庫などもあるところだそうです。
紹介する「木附の里」は、住人予定者が集まって形成されるコミュニティが元になるコーポラティブハウスです。黒野さんは、そこに『住人』として参加されています。ただし、仕事柄、知識があるため住人とコーディネーター(アトリエプランニング、連空間)との橋渡しのような役割を果たされました。
土地形状が細長くなっていたため、長屋形式で分譲スタイルとなっています。けれどもお互いの家の間には垣根や塀・柵といったものを設けず、畦のようなマウントが境界を示しており景観的にも柔らかくなっています。家々の間には細い道が通っており、隣家への通路となっています。また、各戸がそれぞれ玄関先に工夫を凝らした飾り付けを行なうなど、雰囲気よく仕上がっています。
木附の里は竣工1994年で、今年7年目を迎えます。けれどもそれ以前には1年の建設期間のほか、プランニングなどの準備期間がありますので、実際の立ち上がりは1992年に遡ります。
コーポラティブハウスの参加者10軒は全て口コミで集まりました。このうち8軒は大曽根からの移住者であり、元のコミュニティでは学童保育の仲間であったりするなど、それぞれが多少のつながりを持っていました。もともと知り合いだったため、プラン作成段階での集会が容易であったことなどは、コミュニティ形成において成功した一因だと、黒野さんは感じられているそうです。
活動の始まりは、集会ごとに作成した機関紙です。全戸が集まれるわけではないため、欠席者への会の様子の報告がなされるほか、それぞれが家族や各家のプランニングを紹介する記事を掲載しました。これによって、いいところをお互いに取り入れることも可能となり、アイデアの分散・集結が図られる結果となりました。
このように、家づくり、家族づくりが仲間づくりを兼ねて発展していくことになりました。
里の中にはたまり場となる「集会所」があり、そこでは里の仲間が手作りで盛り上げるイベントが季節の折々に行なわれています。家族ぐるみでの付き合いであるため、クリスマスや餅つきなどがにぎやかに開かれます。
そのほか、当初の設計段階では考えつかなかったような住まい手の工夫などもあります。ある家では、休日になると庭にパラソルが出され、旦那衆の集う『カフェ』へと変身します(右写真)。日当たりも眺めもよいスポットを見つけ出すのは、住人の得意技となっていきます。また庭木の植樹には春日井市から補助が出ますが、その手入れは大変なのだそうです。
里の近くの休耕畑(賃料20,000円/年)を共同で借りて菜園とし、その収穫でバーベキュー大会が催されたりもします(左写真)。
同様に田圃を借り、共同での米作りなども行なっています。
また、里内だけの閉鎖的な関係というわけではなく周辺地域との交流も活発で、郷土芸能などの活動にも参加する様子が、写真で紹介されました。
こうした活動は、里のメンバーがそれぞれの得意分野を活かしていきながら、協力だ援助だといった気負いのない、生活を楽しむ・日常を楽しむ・皆で楽しむ、といった姿勢から生まれてくるものではないかと、お話の中から感じられました。
コミュニティ形成の楽しさや良かった経験を、より多くの人に広めようと、木附の里の住人のほかに建築系の関係者も参加し、「安住の会」が結成されました。その後、各地からユーザーや興味を持った人たちが参加するようになり、様々な人たちが集まるようになっています。現在では、家づくりの専門家が牽引の役目を果たしています。
安住の会の中から、コーポラティブハウスのユーザー同士が集まり、「こっぽらくらぶ」が結成されるなど、家づくり・まちづくりの活動範囲はさらに広がりを見せてきています。
木附の里の活動とはまた別に、高蔵寺ニュータウンの中でもコミュニティの核となる「たまり場」をつくろう、との発案により、居酒屋風「ふれあいパブ」が黒野邸において開催されています。これは、月に一度決まった日に、それぞれが一品持参で開く『寄り合い』で、参加者はミニコミ誌の方や大学教授、地元商店の方や学生たちと多様です。決して堅苦しい会議や勉強会の類ではない、コミュニケーションの場となっているそうです。
この地域のまちづくり活動の一環として、『地域通貨』の試みも行なわれたそうです。現在でも継続してはいるそうですが、大きく展開を見せてはいない、と苦笑されていました。
ふれあいパブを中心とした活動が続いてきた中で、これまでのように誰かが家を開放するのではなく、きちんとした集会所が望まれだしたところで、春日井ケーブルテレビネットワーク(KCTV)からオープンスペースの提供があり、「ネットコミュニティプラザ」が8月にオープンしました。同建物はKCTVが開発センターから借用し、その一部を賃料なしで地域での使用に提供してくれているものです。
地域コミュニティビジネスの店舗が入り、地域の人が気軽に立ち寄れる場となりました。また、提供された集会スペースを利用し、子育て支援ネットワークのチームなどが拠点活動を行なっています(右写真)。
国土交通省が行なっている、多摩(八王子)、高蔵寺、千里(大阪)の各ニュータウンを対象とした調査への協力体制をとり、「高蔵寺ニュータウン調査会」が結成されました。多摩の長池地区ではNPO団体である「フュージョン長池」がコミュニティプラザを開き、その活動は非常に注目されています。
NPO活動というと、介護や自然保護など特定の分野に絞られることが多いけれども、まちの核になるNPO活動は「暮らし支援」としてその活動は多岐にわたります。
各地で行なっているコミュニティ活動は、核となる「プラザ」を中心につながりはじめているところです。
Q. ふれあいパブやネットコミュニティプラザの運営主体はどうなっているのか。
A. ふれあいパブは個人でやっている。ネットコミュニティプラザとは全く別のものである。ネットコミュニティプラザは、運営主体といった確固としたものがあるわけではなく、任意・有志で行なっている。
Q. プラザが公共施設利用と異なる点は何か。
A. プラザは開発センターからKCTVが借用し、無償開放しているものである。地域住民に対して完全なる公平性を保つ必要がないという点が、公共施設と異なる。言い換えると、ある特定団体が常時占拠するという状態にもなりうるということである。ただし、現在は地域活動を行なう団体の利用が主であり、うまく回っていて好評である。
Q. どのような利用があるのか。
A. 施設利用はもちろんだが、地域情報のちらし置き場があり自由に持ち帰られるようになっている。ちらしは多治見・犬山などのものも置かれており、非常に広域に利用されている。
Q. プラザ内にある「地域コミュニティビジネス」とは何か。
A. 地域不動産の斡旋である。ただ、開設者の方の私的活動として、住まいや地域の無料相談も行なっている。
Q. まちづくり・まちそだて活動は組織化が先か、寄り合いが先か。
A. 法人化することが組織化であるとかそういうことではないが、目的のないものは散りやすいと思う。ただ、楽しむことは必要であって、組織化する分だけ流動性や発展性にしばりが出てくるのではないだろうか。
● 地域活動というものは、企画ありきでイベントを起こすことが楽しいのではない。寄り合って『自主的に』『自然発生的に』やるのが楽しいものである。
● もちろん、市や町といった公共が仕掛けをつくってうまくいく例もあり、紹介事例が成功例の全てというわけではない。
● 我々コンサルタントや自治体、学者、などといった何らかの「肩書き」を背負って参加し、盛り上げ役になるというのは、やや辛い。やはり住民個々のつながりから発展していき、自らも楽しめるのが良い。背広を脱いで参加する、というのがいいのではないだろうか。
● 背広を着たままであっても、それがその人の特性であるとも言える。持っている知識や人間関係を有効に使い、まちそだてがうまく進む力になると考える。
● まちそだての主体は、いわゆる旧体制の「自治会」とは全く関係なく発生するものである。
● 参加して楽しいでやってきたが、どうもそれだけでは済まなくなっている。やりたいことをやるというだけではダメなようだ。
● まちそだて活動が自然発生的に生じたものであっても、そこには必ず牽引役となる「キーマン」が存在する。そのキーマンが一人に固定することは、その活動の停滞につながるのではないかと危惧する。
● まちそだては人そだて、キーマンそだてであると言えるのではないだろうか。
● 事業型コーポラティブに成功例が少ない理由を、今回の例からどう見出していくかが今後の課題である。