ゼロエミッション屋久島プロジェクト
−循環型社会へ移行するためのシナリオ−
著者:屋久島プロジェクト・ワーキンググループ
発行所:株式会社海象社

 廃棄物が年々増加傾向にある今日、ゼロエミッションを基とした循環型社会への向けた取り組みが注目を集めている。本書で取り上げられている屋久島プロジェクトは、そのゼロエミッション導入のためのプロトタイプとして屋久島を取り上げ、循環型システムの設計・導入の手法を検討している。
 なぜ、ゼロエミッションのプロトタイプとして屋久島を取り上げたのか。
それは、屋久島が島嶼であることが挙げられる。というのも、物質の島内への移入と島からの移出を解析において、離島である屋久島は物質の出入りが把握しやすく、高い制度で解析できるのである。もちろん、世界遺産としての知名度も大きな理由の一つである。

 私がこの本で一番興味を持った章は、「持続可能な観光の発展に向けたシナリオ」である。観光形態ごとの1人1日当たりの廃棄物の量を分析しているのだが、ホテルに比べて民宿の方がプラスチックの廃棄量が多かったり(一括購入できるホテルは比較的プラスチックの廃棄物が少ないという分析)、ホテルは生ゴミの廃棄量が大変多かったり(客の食べ残しの多さが原因と分析)、数字で改めて見ると意外な点や、再度納得する点が多かった。分析を踏まえた後の提言内容には、やや無理を感じる点もあったが、分析の仕方やその結果には、大変満足をしている。ゼロエミッションという響きに、初めは構えて読み始めたが、読み終わる頃には、身近な問題として興味を持てるようになっていた。
 本書には、屋久島の地域の人々の合意形成の仕組みづくりや、ワークショップによる学習プロセスなども盛り込まれており、まちづくりコンサルタントとしての視点においても楽しめる一冊である。

※屋久島プロジェクト
 平成13年度から3年間実施された文部科学省科学技術振興調整費先導的研究「循環型社会システムの屋久島モデルの構築(屋久島ゼロエミッションプロジェクト)」。鹿児島大学が中核機関として活動し、代表は鈴木基之氏(放送大学・国際連合大学)。本書では、6つのシナリオでまとめられている。
@ 島外からの移入量低減に向けたシナリオ
A 未利用有機性資源の活用に向けたシナリオ
B エネルギー的自立と水素社会構築に向けたシナリオ
C 経済的自立に向けたシナリオ
D 持続可能な観光の発展に向けたシナリオ
E 持続可能な社会の合意形成に向けたシナリオ



津田あゆみ((株)UFJ総合研究所)/2005.7



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