都市再生
著者:ロバータ・B・グラッツ/富田靱彦 宮路真知子訳 林泰義監訳
出版:晶文社 発行日:1993年6月30日

 著者はニューヨーク生まれの新聞記者で、歴史的建物保存の取材を契機にアメリカの都市再生についての取材を行い、まとめた本である。正直言って、アメリカ人の書く報告書は分厚いものが多く、読むのに閉口してしまうことが多い。この本も、本文が347ページであり、何度も挫折しそうになった。しかし、読んでいくと現在日本社会が抱えている問題と共通の話題が多く取り上げられており、興味をそそられ最後まで読むことができた。
 内容は、「コミュニティ、再開発、商店街、街並み、地域の財産」と大きく分かれており、それぞれアメリカのいろんな都市を事例にしながら、どのように市街地が活性化されていったか、行政と住民のどのような運動が功を奏し、また失敗に終わったのかを記者らしく報道記事風に書いている。単に事実を伝えるのみでなく、都市の再生にとって何が重要なのかを解説しながら伝えてくれ、我々が市街地の再生を考える上でかなり役に立つ。ただし、アメリカと我が国のまちの環境や社会事情が大きく異なっていることは十分念頭に置いて解釈する必要がある。
 この本の中で、「アーバン・ハズバンドリー(都市の養育)」という言葉が出てくる。彼女によると、「単に古い建物を救済、再利用するものではない…病んだ都市を多方面な方向から治療し、自然環境と人が造った環境を共に保護、保存しようというものだ。」この考え方が著書の全体に流れている。 
 まちづくりには非凡なリーダーがいること、コミュニティは「あたらしい血と新しいビジネスを絶えず取り込めなければ、いかなるコミュニティも停滞してしまうであろう。」、まちの再生プロセスは「模倣ではなく革新。地域の特質の移し替えではなく、その強化。場所への敬意。小さな地域の中に大きな変化を築くこと。地域住民の意味ある参加。時間の継続。そして公的資金を慎重に、生産的に活用すること…」であり、最も重要なことは「改善の機会創出と、旧来の住民が住み続け、かつ中流階級化できるような成長の可能性であろう。」と説く。
 この本は厚い本ではあるが、今日の日本の都市再生にとって参考となる示唆が含まれており、興味のある項目から読み進めれば意外と読破できてしまう本だ。
 一般市民の視点から書かれており、専門家でない方が興味をもって読めるかもしれない。 
近藤光良(アール・アイ・エー)/1999.12



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