定年ゴジラ
著者:重松清
出版:講談社 (1998年3月)
目 次
第一章 定年ゴジラ
第二章 ふうまん
第三章 きのうのジョー
第四章 夢はいまもめぐりて
第五章 憂々自適
第六章 くぬぎ台ツアー
第七章 家族写真
帰ってきたゴジラ(文庫版のみ)

「定年ゴジラ」は、新宿まで片道1時間半の距離に位置する架空のニュータウン「くぬぎ台」を舞台にした小説です。著者が、ニュータウンでの生活で疑問に思ったことなどをもとに書いた小説とのこと。

30代でニュータウンの戸建住宅を購入し、定年まで仕事一筋であった60歳の男性が主人公で、その妻や2人の娘、同じニュータウンに暮らす定年組の先輩後輩、ニュータウンに批判的な記事を書く大学の先生や学生とのやりとりなどが描かれています。特に話の盛り上がりがあるわけでもなく、日常生活のように流れていくストーリーですが、所々に出てくるニュータウンの状況、コミュニティの話、大学の先生や学生によるニュータウンの調査などが、まちづくりに係る者としては、興味を惹かれる内容となっています。また、段階的なまちびらきにより年代が異なることで生まれるまちの様子の違いや、30年前は理想とされたニュータウンの構造や生活スタイルと現代の生活とのギャップなど、小説であるもののニュータウンの状況や課題などが細かく描かれています。

この小説は、大学院生の頃に初めて読み、まちづくりの仕事に熱中している?30歳に2回目を読んでいます。当初は、都市計画の勉強や研究をしていた頃であったこともあり、ストーリーや主人公の生き方にはさほど興味がなく、ニュータウンの構造的な話や大学の先生のニュータウンに対する研究の話ばかりに興味を示していました。どちらかというとニュータウンの問題点ばかりを気にしながら読んでおり、ニュータウンで生活する人々の話にはあまり着目していませんでした。その後、まちづくり関係の仕事をし、行政や住民と係るようになった30歳では、まち自体よりもニュータウンで生活する人の生き方や考え方に興味が惹かれました。

この図書は、まちづくりがメインのストーリーでもなく、まちづくりを勉強するための参考図書でもなく、ニュータウンの課題に対する解決策などが示されているわけではありません。ただ、専門的な立場でみると問題だらけのまちでも、そこに住んでいる人にとっては大切なまちであり、ふるさとであること、どのようなまちでも大切にしたい人がいること、そんなことを気にしながら仕事ができているだろうか、と考えさせられました。次に40歳頃になってこの本を読んだら、どう思うのだろう・・・。

久保岳生((株)アール・アイ・エー 名古屋支社)/2011.2



▲図書紹介のトップに戻る▲