自然保護を問い直す
著者:鬼頭秀一
出版:ちくま新書
 「環境共生」や「地球に優しい」という言葉が、時代のキーワードとして氾濫するなか、本書は、いかに我々が、この問題を認識すべきかを明らかにしている。まず著者は、問題のレベルが、「自然保護」か「開発推進」かという短絡的なものにならないよう、18世紀末からの欧米の環境倫理思想の系譜を紹介しながら、読者に深い視点の提供を行っており、本書の大きな特徴となっている。
 新書版での発刊ということもあり、もう少し説明がほしい点もあるが、ポイントが簡潔に整理されており、西欧近代社会で展開された価値体系の多様さに触れるだけでも一読の価値があり、読み応え十分である。
 また著者は、これまでの環境倫理思想の限界を指摘した上で、新しい環境学の枠組みを果敢に提示している。ここでは単に自然を守るということだけでなく、自然も含めてその地域の暮らしや文化を守るという観点が重要であるとする主張がなされているが、その理論展開は、研究者らしい小気味良いものになっている。
 自然保護が感傷的な側面から取り上げられることが多いなかで、現代人としての我々が、どのような姿勢で自然と関係を持てば良いのかを示した、この「理論的な枠組み」は、多くの示唆に富み、また実践的でもある。干潟保護、森林保護など、各地で実際に起きている環境問題を考えるうえでも大いに役立つ内容である。
 環境共生をテーマとする国際博覧会が2005年に愛知県瀬戸市を中心に開催されることが決定した。単にイベントとしての博覧会ではなく、「環境共生」とは何かを考える機会としたいものであるが、本書をその入門書としてぜひお読みいただきたい。 
永柳 宏((株)東海総合研究所)/1999.11



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