塩の道
著者:宮本 常一
出版:講談社学術文庫 1985年3月第1刷

 日本の代表的民俗学者として活躍された著者から多くの示唆を得られている方が多く居られることと思われる。地域計画を職業とする立場からは土木・建築工学的な著述が基礎的に重要であると思いつつ、ついつい地域の成り立ちに興味を持ち、地域の歴史や文化に関する情報に目がいきがちだ。そんな折り、本屋で見かけた一冊がこの本である。
 宮本先生には生涯をかけた民族学のフィールドワークとこれに基づく多数の著述がある。その一部しか私は呼んでいないが、地域と文化の歴史的成り立ちを知る上で、このような実践的地域研究の成果から多くの事を教えられる。紹介した著書は1981年に亡くなられた先生の最晩年の講演録として貴重なものだけでなく、数少ない文庫本でもある。私見ではあるが、若い頃から都市計画や地域計画家にとって民族学の学習は基礎的かつ不可欠のものと考えてきた。伊藤ていじ先生の著述を学んだのも同様の考え方からである。
 本論に戻って、しばしば、足助町の仕事に関わっていたので、『塩の道』には認識を持っていた。この本から、当然とはいえ日本中に塩の道があったことを教えられた。その多くは川筋を経由している。そこから改めて川の上流と下流の生活交流の歴史を垣間見る事ができる。そして道のできる経緯、輸送手段でもあった牛、馬との関わり、生活と食文化の発展経緯など先生のフィールドワークに基づく研究成果が挿し絵を含めて多彩に盛り込まれている。関心のある方は一度ご覧になることをおすすめする。 

尾関利勝(樺n域計画建築研究所 名古屋事務所)/1999.11



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