仕事力
五十嵐文生著 朝日新聞社広告局編
朝日新聞社 2005.6.30発行
  「仕事について、いったいどう考えればいいのか。あなたには明確な答えがありますか?」

 本書はまずこの言葉で問い掛けられる。不景気、方向の定まらない行政、止まらない環境破壊。不安定な社会の動向の中で今、何をもって自分の仕事を全うする意味を見出せるのか。

 この書で独自の仕事観を語る人々は、知恵と意欲と行動で一流の仕事を築いてきた方々である。今までの経験を詰めた仕事に対する言葉は重く、力強く、仕事に対する自分の考えを揺さぶる。

 朝倉摂さんは舞台美術家として活躍を続ける方で、自然の緑や道路に落ちているゴミにまで興味を持ち、表現のヒントを見つけようとするという。人は就きたい職業や自分の仕事上の目標を掲げると、どうしてもそれに関することだけに注意を払いはしないだろうか。明日役に立つ事だけでなく、世の中の自然に、人に、周りの環境に目を見開き、「自分の持てる力を全て注ぎ込むこと」が仕事をするということだと彼女は言う。この言葉を受けて考えてみると、いい仕事、悪い仕事という思い込みにとらわれた仕事観をすでに作り上げようとしてはいなかっただろうかと、自分を省みた。「嫌な仕事でも必ず学ぶ事がある、仕事をひとつ達成すると、それがどんなに小さな業績でも自分の成長につながる。」と述べるのは、現在国内外の企業アドバイザーとして活躍される大前研一氏である。このような真直ぐで迷いなく自らの仕事に向かう15名の仕事観には、その人の生き方までもが表れている。ただ個性的な仕事を求めるのではなく、自分が生きていくために芯となる働き方や仕事を築く力が、社会人として必要な力ではないだろうか。
池田哲也( (社)地域問題研究所)/2006.4



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