子どもはどこで犯罪にあっているか |
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中村攻著 | ||
晶文社/2000年3月
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少年犯罪が増えている。キレル17歳を巡る犯罪研究がマスコミをにぎわしている。 「どのような子どもがどのような精神状態で犯罪を起こすのか」という視点を180度転換し、「どのような子どもがどのように被害を受けるのか」という視点で書かれたのが本書である。 この問いは、「犯罪者になることはないけれど、被害者になるかもしれない」という一般市民にとって身近なテーマであり、犯罪空間学として知的好奇心を駆り立てる。 著者は造園学を専門とする立場から、都市計画が対象としてしてきた空間において、子どもがどのように犯罪対象となったかを実証的に分析している。公園・道路・商店街・駅・駐車場など、街の中にひそむ危険な要因を指摘し対策を提案する。著者によると、都市空間の貧困さが子どもの発達を大きく阻害しているという。その結果、子どもの遊びの発達に見られる性差や年齢が乏しく、季節差もほとんどなくなっている。さらに、子どもの遊び場となる身近な空間を生み出す都市計画は、ややもすると計画者(これは行政であることが多い)や設計者(これは我々コンサルタントであることが多い)の都合で進められる。「子どもの発達にとって好ましいか」とか「子どもを被害から守ることができるか」という視点は、ほとんど意識されていなかったのではないか。少年犯罪の一因が都市計画にもあるという、重要な問題提起である。 昨今の犯罪研究では、被害者の属性とか生活歴などよりも、被害発生現場における状況分析が重要であることが指摘されるようになってきた。本書で紹介されている多くの犯罪空間の事例は、その重要性を証明する貴重な資料でもあると同時に、犯罪を防ぐために都市計画を立案あるいは見直す際の手がかりとして有益である。 今後、安全なまちづくりに向けて、本書で提供されている数多くの事例をもとに、都市計画手法として一般化、理論化するための研究が進むことを期待する。 |
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新田((株)日建設計)/2000.6.16 |