建築プロデューサー
著者: 浜野安宏
出版: 鹿島出版会
 著者は、青山の「フロムファースト」のプロデュース、東急ハンズの業態開発に携わり、最近では渋谷の駅前で、テレビに何かと映る「QFRONT」を手がけた、あの「浜野安宏」氏である。都市計画や都市デザインの最前線で活躍している年代の人であれば、誰もが著者の影響を少なからず受けているのではなかろうか。我々世代には、建築家万能時代において、彼のような建築以外の才能が、都市や商業空間を創るという仕事ぶりに、プランナーの存在感を照らし合わせ、その作品の「都市的な論理付け」や「商業的計算」に興奮したものである。本書は、著者のこれまでの仕事のプロセスやコンセプトをまとめた、いわゆる「仕事の経歴書」となっているものであり、作品や仕事の舞台裏まで垣間見ることができ興味深い。
 我々、コンサルタントという職業も、氏と同様な機会に立たされ、理屈や理論をいう機会が少なくないが、氏のこれまでの仕事をみて気づく点がある。浜野氏の仕事は、理屈や理論よりも、結果を大切にしており、時代に評価されるものを残している点である。我々は、自らの「腕の悪い部分」や「見通しの甘い部分」を理屈にすり替えてはいないだろうか。また、成果がでない点を「お客」のせいにすり替えていないだろうか。しかし、氏の作品を見るかぎり、理屈はシンプルであり、後は、仕事への愛着や情熱が、そして「お客への説得」が良いデザインや結果に結びついているのである。
 彼は、本書のなかで、こうした仕事に携わる建築プロデューサーを、ひとつの職能として解説しているわけであるが、なかなか一般論として整理することは難しいような気がする。後天的な職能が仕事を支えているというのではなく、氏の人間性が作品に投影されている気がしてならないのである。特に最近、氏と仕事でおつきあいをさせていただく機会を持ってから、その感を強くしている。本書は、そういった意味で「浜野安宏」の人間ドキュメント、そのものとなっている。
  
永柳宏(東海総合研究所)/2000.6

 

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