まちづくりの経済学 知っておきたい手法と考え方

著者:井上 裕(明海大学不動産学部教授)
出版社:学芸出版社   2001.1.30


 最近になって不動産評価の一手法としてDCF法(Discount Cash Flow Analysis)が脚光を浴び、その手の専門書が書店に並ぶようになってきました。また、市街地再開発事業などの公共的事業の費用対効果の判定手法として、費用便益分析の制度化もはじまっています。私のように数学がちょっと苦手な人間には、取っ付きにくい内容がまちづくりの実務に出てきています。

 本書の著者は英国への留学をはじめ、欧米での研究活動が長い先生です。著者は、欧米諸国の大学では都市計画コースの必修科目として経済学に関する課目があり、欧米ではまちづくりに使える経済学的知識が常識として確立されていると述べています。そこで、私も建築系都市計画を専攻した学生時代を振り返り、不足する知識を埋めるべく一念発起で本書を手に取りました。

 本書は、欧米の大学や大学院で用いられている教科書等を参考として、DCF法や費用便益分析を具体的で簡単な事例とともにわかりやすく解説しています。また、都市経済学の基本的な理論と考え方を紹介し、まちづくりに係る経済学の限界についても平易に触れており、私のような者でも十分に理解できる内容でした。

 著者は、欧米諸都市に比べ、日本のまちづくりが遅れている背景には、欧米ではずっと以前に常識となっている経済学が軽視され、土地神話に洗脳されてきたことがあると述べています。さらに、土地神話とバブルが崩壊したこれからは、経済学の常識的な手法や考え方が通用していくはずとしています。上述しましたように、まちづくりと経済学の考え方を平易に紹介していますので、皆様も著者のこのような見識の一端を垣間見られてはいかがでしょうか。


小西浩夫(鞄本設計名古屋支社)/2002.6



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