観光学への扉
井口貢 編著
学芸出版社  2008.11.10 
 近年、観光に対する動きは大きく変わっており、2003年に観光立国宣言、2007年には観光基本法を改正して観光立国推進基本法、2008年では観光庁が設置されている。また、大学においても2003年以降、観光関連の学科が設立されるなど、観光を専門的に学ぶ場が多く設けられている。

 本書は、大きな変化を迎えている観光について、観光の歴史移り変わりから、今後の観光のあるべき姿を3部によって構成しており、第1部では「観光と観光産業に歴史」として、近代観光の歴史からマスツーリズムの行き詰まりまでが述べられている。第2部では「消費者が求める観光とホスピタリティの変化」として、消費者主導型観光の時代への移り変わりや観光資源、文化、交通、メディアなど様々な視点から観光の在り方について述べられている。第3部では「観光の力と持続可能なコミュニティ」として、企業と地域住民が協働して観光に取組むべき姿を述べている。

 また本書では、実際に観光が立ち上がる場面に関わった方たちによって書かれており、具体例を挙げる中で、観光における問題を提起し、問題解決に向けての取組む方向を示している。さらに、章ごとにコラムが掲載されており、関連する事項について詳しく説明がなされており、観光学をこれから学ぶ方にも様々な視点から観光が成り立っていることを実感できるように工夫されている。

   今後、日本が観光立国としていくために、地域の住民や企業が協働し、街を誇れるとして育てていくことの必要性を説いており、一時的な観光地ではなく多くの人が訪れたいと思う街となる方向性を示している。本書の最後で、「観光客」と「観光者」の2つの違いについて述べており、前者は地域経済への波及効果があるが付和雷同型の人々も含んでいる旅行者で、後者は主体的でかつ地域への文化的波及効果をもたらす人々としている。自身も仕事で多くの地域でコンサルタントの立場から、お手伝いをさせてもらっているが、後者が生まれるまちづくりの視点を忘れず、今後も取り組んでいきたいと思う。
朝倉卓也((株)都市研究所スペーシア)/2009.9



▲図書紹介のトップに戻る▲