ハウジングは鍋もののように
著者:延藤安弘
出版社:丸善株式会社 1996.5.30
 住まいとまちづくりの語り部、延藤安弘さんの代表的な著書のひとつです。
 住まい手みずからの手による集住環境の創造を「鍋物」に例えて、
 1.地域ごとの特徴ある産物を生かした(場所的個性)
 2.海や山の幸が出会う味のいいアンバイによって食欲をそそる(混成の妙)
 3.作る人と食べる人を分けることなくお互いに楽しみあい(共創と楽遊)
 4.おいしさのあまりすべてを食べつくしてあとかたずけが楽(愛着的管理)
 などと、その魅力を愉しく語っています。

 私自身も高蔵寺にある「木附の里」というコーポラティブの住人であり、その魅力を肌で感じつつ毎日の生活を送っています。多様性を互いに認めあいつつ全体としての個性がたち現れる場として、鍋物という例えは確かにコーポラティブの特性をうまく言い得ているなあ、と実感します。
 コーポラティブ住宅については、「毎日のつきあいが煩わしいのでは?」との質問をよく受けますが、いつも「つかず離れずの具合がみなさん絶妙なんです」とお答えしています。
 私たちのコミュニティでは、以外と普段のつきあいはさっぱりしたもので、何かやろうというときにわっと集まってくるといった感じです。日常生活においては、住人がそれぞれに間合いの取り方を感覚的につかんでいて、人間関係のネットワークがいたるところで自然に出来ていった、というのが現場立ちあい人としての感想です。
 こうした魅力ある個々の関係を全体としてみると、コミュニティの脈略なり「らしさ」がして立ち現れてくる、という感じでしょうか。「複雑適応系」の概念にも通ずるところがあります。
 集団の中で個が溶けてしまうスープではなく、竹輪やガンモ、里芋などがそのかたちを崩すことなく、ダシを滲み出しながら全体が鍋物としての魅力をつくってゆく、これは確かに答えられない味です。 
黒野雅好(日本設計)/2000.7

 

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