風景を創る −環境美学への道―
著者: 中村良夫
出版社:NHK出版  2004.6.20
 この本をふと手に取ったのは、「風景を創る」というタイトルと、表紙に使われている写真との組み合わせを意外に思ったからだった。その表紙を飾っているのは、「The Lighting Field」と題された、ウォルター・デ・マリア作のアート作品の写真である。この作品は、1960年代にアメリカを中心に出てきた"ランド・アート"と呼ばれる流れにある作品である。名前のとおり、これらの作品群は、美術館やギャラリーという既存の展示場所を離れ、自然の中へとその表現場所を求めたものである。その特徴として、作品のスケールが大きく、自然とともにそのものが移り変わっていくという宿命を背負っている。「The Lighting Field」は、砂漠に鋼鉄のパイプを無数に立て、雷がそのパイプに落ちる様を眺めるという作品である。この作品と、「風景を創る」というタイトルがどう結びついてくるのか。

 この本では、人が風景をどのように認識しているか、風景をデザインすることの意味について、庭と風景の関係、人と自然との関わり方について、生活文化における風景の意味合いについて、日本の都市の成り立ち、そして日本の都市景観の行方についてなど、「風景」をキーワードに多岐にわたる分野を俯瞰的に解説している。技術や方法論への偏り、実例の羅列にはならず、日本の「風景」を支えてきた日本人の文化や価値観、生活スタイルの見直しに焦点が当てられていることがおもしろい。都市景観論というよりは、「景観」を切り口にした文化論に近いのかもしれない。よって、専門家でなくても十分におもしろく読める内容となっている。

 前述の「The Lighting Field」についても文中で触れられているが、著者はこれを借景の一種と考え、「簡素な平庭のかなたに霊峰を仰ぐあの借景と同じ原理である。」と述べている。非常に興味深い解釈である。

 また、随所に見られる文学的とも言える表現や引用の巧みさ、取り上げる話題の幅広さも、読み物としてのおもしろさを生んでいる。表紙のデザインといい、よくよくこの著者は人を引き込むのがうまい。

 この本を読んで、自然の風景と日本人の美的感覚(あるいは身体感覚)との関係について、今までぼんやりと知っていたようなことを改めて考える機会となった。また、通過していくだけの知識ではなく、実になる知識、そして継続する興味の芽となって自分の中に残ったように思う。
 
花村 珠美 ((株)エルイー創造研究所)/2005.1



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