団地再生まちづくり 建て替えずによみがえる団地・マンション・コミュニティ
編著/NPO団地再生研究会、合人社計画研究所
発行所/叶曜社 2006年6月22日初版第一刷
  団地開発が盛んに行われた1970年代から30年以上が過ぎ、多くの団地が老朽化している。これまでの日本には、古くなった建物は壊してまた建てるというスクラップ・アンド・ビルドの考えが共通認識としてあったが、少子高齢化や経済環境の悪化、環境への配慮等から、既存ストックを活用するという方向へ意識転換が始まった。老朽化した団地においても同様に、建て替えない再生が重要視されている。

  本書では、団地再生が盛んなヨーロッパの事例をはじめとして、国内の先駆的な事例など、全部で35事例が掲載され、22名の有識者や専門家によってわかりやすく解説されている。団地再生事例集とも呼べる1冊である。この本の面白いところは、タイトルにもあるように、団地再生を“まちづくり”としてとらえているところである。団地再生を単に建物の大規模修繕と捉えるのではなく、コミュニティの再構築や地球に優しい環境づくりなど、まちづくりで実施されていることが団地という小さな集合体の中でも同様に実施されている。例えば、団地再生の代表例として注目されるドイツのライネフェルデ団地では、5階建ての住棟を平屋に減築して住民センターに用途転換したり、人口減少で余った住棟1棟を撤去し緑豊かな広場を整備するなど、積極的にコミュニティ空間の創出が図られている。また、驚くことに、産業廃棄物は排出エリア内で処理され、廃材は広場の仕切りなどに再利用されている。

  このように、本書には建物の再生だけではなく、その周辺のコミュニティや環境問題まで幅広い視点が盛り込まれ、団地再生の様々な可能性が感じられる。また、まちづくりの視点から読んでも楽しめる1冊であると思う。  
喜田祥子((株)都市研究所スペーシア)/2008.7



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