フランスの景観を読む 〜保存と規制の現代都市計画〜
著者:和田幸信
出版社:鹿島出版会2007.05.30
  学生の頃、パリからスペインに向かって旅をした時、大きな衝撃だったのがフランスの郊外の風景の美しさであった。パリから車で数十分走れば、なだらかな畑と並木の先に伝統的な石造りの集落を目にすることができる。それはまるで名画の中の風景であった。日本でも、1960年代頃までは日本らしい美しい風景が各地にあったことを当時の写真から知ることができるが、今ではその多くは姿を消し、変わって田んぼの真ん中に大型スーパーが建設されるというような、悲惨な風景を見せられる。この差はどうしてついてしまったのだろうか。その問に答えてくれるのが本書である。フランスでは60年前から多くの規制や制度により景観が保全された結果であり、特に広告の規制と、歴史的な建造物の周辺(500mの範囲)の規制は非常に厳しいという。この本によると、日本には伝統的建造物群保存地区が65ヵ所(執筆当時)あるが、フランスと同じことを60年前から行っていれば、約6500ヵ所の伝統的建造物群保存地区ができていたかもしれないと言っている。日本がそんな魅力的な風景の国になるなら、今からでもなんとかしたいという思いに駆られる。

 さて、日本では2004年に景観法が制定され、自治体が景観について今までよりは大きな強制力を持つことが可能となった。しかし、この本を読んで気付かされた大きな問題は、フランスと日本の自国文化を尊重することに対する国民性の差についてである。フランスでは建築に関する法律の初めに「建築や景観は文化であり、公益である」と明文化されているそうである。これは、フランス国民の建築や景観という文化に対する誇りの表れである。残念ながら日本では個人の自由や利益より、公共の文化を優先するという法律がすぐに成立するのは難しいと言わざるを得ないが、この本で紹介されているフランスの先駆的な制度は今後の景観形成に何らかの参考になるだろう。  
堀内研自((株)都市研究所スペーシア)/2007.7



▲図書紹介のトップに戻る▲