城山・覚王山散策路サインづくり/名古屋市千種区

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サインづくり/ワークショップ/景観

はじめに 「城山・覚王山のまちづくり活動」

  2001年2月に、名古屋市千種区の魅力づくり(区役所が中心となって区民とともに取り組む事業)のひとつである城山・覚王山地区魅力アップ事業の運営組織として「城山・覚王山地区魅力アップ事業実行委員会」が立ち上がりました。目的は、城山・覚王山地区のまちとしての魅力アップにつながる活動を推し進めることにあり、初年度より様々な活動が開始されました。3年目からは、テーマ別のワーキンググループを構成することにし、歴史グループ、事業グループ、散策路グループの3チームを構成しました。歴史グループは、歴史を軸に魅力アップを図ろうと、揚輝荘を中心に近代建築としての歴史的価値を見直す活動を自立的に開始しています。事業グループが中心に始めた市民参加の「やまのて音楽祭」は、年々内容を充実させています。

なぜサインづくりか?

  この「サインづくりワークショップ」は、3番目の散策路グループが母体となってスタートしています。この地区の資源を活用して、楽しく散策できるまちづくりを行うことは当初より大きな目的でした。そのために、実行員会は散策の助けとなるオリジナルマップを完成させました。起伏ある地形が生み出すビューポイント、市民の視点から拾い出したユニークなシーンを紹介するものです。一方で、この町をフィールドにしたイベント時に、多くの参加者から「会場が分かりにくい」あるいは「どこに何があるか知りたい」などの声が寄せられ、まちのわかりにくさがまちづくり活動の障害になっていることがわかってきました。あらためて「手元のマップと、現地のサイン」の重要性に気が付かされたわけです。まちづくり活動を円滑にすすめるために、どうしても分りやすいサインが必要です。楽しく散策できるまちのために、現地でのサインを見直してみようということになったわけです。
 このワークショップは、名古屋市のNPO提案公募型協働事業として実施したものです。ただし、準備研究会は委託事業外です。ワークショップ参加者は公募によって集め、10〜70代の幅広い年齢層の方が47名参加しました。城山・覚王山が好きなひと、地元でサインに興味があるひと、地元で歴史に詳しいひと、仕事帰りに参加しているひと、デザインを勉強している学生などが参加しました。

準備研究会

 まず、ワークショップを行う前の準備段階として、2回の準備研究会を行いました。第1回目は「城山・覚王山について学ぼう」で、「城山・覚王山のいいところとわるいところ」を話し合いながら地域の魅力を再確認しました。第2回目は「サインについて学ぼう」で、千種区役所まちづくり推進部佐藤主幹より名古屋市歩行者系サインマニュアルについて説明していただき、また、グラフィックデザイナーの森旬子さんを講師として招いて、海外のサインの事例などをもとにサインについてのお話を聞き、「サインづくりで大事なこと」について話し合いました。

サインづくりワークショップ

 まち歩きで気づくところから始まり、サインのアイディアを出し合い、専門家の意見を聞くところまでをひとつの流れとして、4回のワークショップを行いました。第1回目は「まちを歩いてサインを観察しよう」で、ポラロイドカメラを手にまちを歩き、気になったサインなどを撮影しグループごとに発表しました。第2回目は「どんなサインが必要?」で、前回気になったところをもとにサインづくりの方針をグループごとに決めました。第3回目は「サインをデザインしよう」で、模造紙にサインの各自書いてきたサインのアイディアをまとめました。第4回目は「専門家の意見を聞こう」で、第2回準備研究会でサインの話をしていただいたグラフィックデザイナーの森旬子さんに各グループの発表を聞いてもらい、プロの視点から講評をしていただきました。


ワークショップの様子


まち歩きの様子


グループ作業の様子


サインのアイディア

サインづくりワーキンググループ

 ワークショップ参加者の中で希望を募り、サイン計画を作成するワーキンググループを6回行いました。ワークショップでまとめたサインのアイディアと、ワーキンググループにて新たに出されたアイディア、収集した各地のサインの事例などをもとに「城山・覚王山散策路サイン計画」を作成しました。
 ワークショップやワーキンググループの過程において、参加者から提案された景観整備のためのサインに関するアイディアは多岐にわたるものでした。話し合いの中で、これらを単にアイディア集として羅列するのではなく、サイン分類表を作成し、これらのアイディア自身がどのような性質のものなのかをわかりやすく提示することになりました。分類表の横軸は、信号系サインと象徴系サインに区分しています。対象者に直接的に文字や絵柄を用いて情報を明示するのが信号系サインで、誘導案内や規制、ポスターなど一般的な表示サインです。一方、象徴系サインは、設置目的がサイン以外のもので、情報内容を明示することはないが存在そのものが環境を構成するもので、例えば、参道脇の松の木が場所の目印になると同時に覚王山らしさを醸し出しているといった類です。縦軸は、その地域の雰囲気、イメージがどこから発信されているかという視点から、まちの構造、表情、演出の3つに区分しています。また、一般的なサイン以外のアイディアも多数出されたことから、参加者の意見により、サイン計画のタイトルを「サインを通して見る楽しいまち」としました。


サイン分類表


城山・覚王山散策路サイン計画表紙

おわりに「サインを通して見る楽しいまち」

 地域住民が参画したサイン計画は、既成概念に捉われないユニークなアイディアが豊富で、楽しいものに仕上がったと思います。参加者の多くは、提案したサインが実現できるのか?という不安を抱えながらのスタートだったでしょう。実際のところ、実現できる可能性は今のところほとんどありません。しかし、ワークショップを行っていく過程で、サインづくりを通してもっと深いところに議論が発展していきました。まち歩きを行い既存のサインを見直すことは、まちの景観に関する問題点を浮き彫りにし分析する視点につながりました。また、新しいサインを提案することは、まちの魅力を再認識し、どうやってその魅力を発信していくかの議論を促しました。結果的に、サインづくりを通して、まちづくりを考えるところにまで発展していったと言えます。このワークショップをきっかけとして、城山・覚王山地区魅力アップ事業実行委員会の活動の幅が広がったように思います。

坂戸尚子((株)エルイー創造研究所)/2005.7

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