市庁舎建設も市民の手で/愛知県犬山市 

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 市民参加/ワークショップ


1.はじめに:行政のやる気次第で如何様にもなる市民参加

 市民参加という言葉が、あちこちで聞かれるようになりました。このまちづくりおもしろ講座でも、様々な市民参加が紹介されています。
 こうした市民参加型のまちづくりは、行政側のやる気次第で、如何様にもなってしまうことを、愛知県犬山市での取り組みにおいて身をもって感じており、この事例をご紹介したいと思います。

2.従来の枠組みでは建設できない議論のステップ

 今回、紹介させていただく犬山市の事例は、古くなった市庁舎を新しく建設しようという事業です。現在は、移転候補地の選定から始まり、庁舎の中身を定める基本構想の策定を行う段階にあります。
 これまでの市庁舎の建設は、極端な言い方をすれば、建設資金を国から借り受け、住民の数に見合った職員の人数に、自治省が示す算定基準面積を掛け合わせて規模を設定し、公開コンペで最も評価の高いデザインにより設計し、建設するという手続きが一般的でした。
 市民の声の反映ということについては、各種団体の代表者から組織される市庁舎建設促進協議会での議論や、選挙によって選出された議員による議会での議論といった形で、間接的に反映していく手法が主でした。

3.犬山市での取り組み

 こうした従来からの手法に対し、犬山市の取り組みはもう一歩市民参加を進めた事例であります。
 犬山市では、「議員による特別委員会」、「商工会議所・婦人会など各種団体の代表者からなる推進協議会」での議論も行っています。その一方で、市民参加を促す仕掛けを行っており、その一つ目として、先ほどの推進協議会に、広く公募により一般市民の参加を募り、議論に加わっていただいています。もちろんその協議会は公開制で、議論された内容は、ホームページ等で報告されています。
 仕掛けの二つ目としては、大規模なワークショップ「市民会議」を開催しています。市庁舎建設は、70,000人を超える市民全員に広く関係するテーマであることから、100人程度まで入場可能な大きな会場で、一テーブル10人づつのグループを作り、それぞれのテーブルで議論し、結果を発表しあう形式で進めています。
 これまでに、「どんなところにあるといいのかな?(移転先の条件整理)」、「新しい市庁舎でどんなことができたらいいのかな?(市民利用として新たに必要な機能の整理)」、「新しい市庁舎を計画してみよう!(機能配置)」など、既に4回ほどワークショップを実施しています。
 協議会のメンバーが市民会議のテーブルの輪に加わることで、直接市民の意見を肌身に感じとることができるため、協議会の議論がより活発になっています。さらには、こうした議論の結果が、市長に対する提言へと結びつくことになっているため、市長も独りよがりな行政施策が行えません。


4.ワークショップの実施により見えたこと:自治体担当者の姿勢

 今回の取り組みは、市担当者の積極的な姿勢があり実施できたものです。市民に対して正面から向き合い、意見集約・情報開示を行う当たり前の行為を実施しなければならないという姿勢を持ち続けた担当者の気持ちによるものです。
 我々コンサルタントは、こうした議論の潤滑油的な役割を担うポジションにあるものの、スケジュールにあわせて議論を前に進めることを優先するあまり、手続きとして実施すればよいという後ろ向きな姿勢になることがままあります。しかし、参加される市民の真剣な姿を前にすれば、この意見を無駄にしてはいけない、積極的に情報をオープンにして議論すべき世の中の流れを改めて感じます。

5.今後の展開

 今後は、引き続き市民参加型の検討を進めるために市民フォーラムの実施や、財政力の乏しいなかで建設していくために、資金調達手段として市民からの募金を集める取り組みの実施など、より市民の協力を募っていく予定です。
 市民の意見が反映され、市民が愛着を持った庁舎となるよう、取り組みに協力していきたいと思っています。

筒井康史((株)東海総合研究所)/2000.12

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