市民の「足」として活躍するコミュニティバス 

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 市民の移動手段/公共交通/コミュニティバス


1.コミュニティバスを運行する市町村が増えてきました

 愛知県長久手町の「N−バス」、岐阜県可児市の「さつきバス」、三重県鈴鹿市の「C−バス」など、東海地域では市町村が事業主体となり、コミュニティバスを運行するところが増えてきました。この背景としては、以下に示すことが考えられます。

1)既存の鉄道・バス路線を維持することが困難

 これまで、市民の移動手段の多くは民間の鉄道・バス事業者による公共交通機関が担っていました。しかし、モータリゼーションが進み、市民の多くが公共交通機関を利用しなくなりましたので、既存の鉄道・バス路線では運行本数の減少、路線の廃止が進められました。この結果、自動車を運転できない市民にとっては日常生活における移動手段がなくなってしまいましたので、市民の移動手段を確保することが大きな行政課題となりました。

2)道路整備、駅前広場整備など都市基盤整備を補完

 地方都市では、朝夕のラッシュ時には自動車による慢性的な交通渋滞が発生しています。この渋滞を解消するため、これまでは道路整備が進められました。しかし、道路整備は多額の財源が必要ですので、今後税収の伸びが期待できない市町村にとっては大きな負担になります。また、道路整備には長い整備期間が必要です。そこで、道路整備を進めるよりも、自動車交通を減らす方がより効率的、効果的であることから、代替交通手段としてのコミュニティバスが注目されるようになりました。

3)地球温暖化防止に向けた対応

 私たちの住む地球は、二酸化炭素などの増加により、どんどん気温が上昇しています。これ以上高くなると、南極の氷河が溶け海抜の低い地域では水没するおそれがあります。また、農作物の生育に影響を与え、世界的な食糧危機に発展するおそれもあります。
 こうしたことから、地球規模で二酸化炭素の排出抑制に取り組むことになり、わが国は2010年頃の二酸化炭素排出量を1990年時点と比べ6%削減することを約束しました。この約束を達成するために、多くの二酸化炭素を排出している自動車交通を減らすことが必要になりました。


2.コミュニティバスが市民の「足」として活躍するために

 コミュニティバスは、市町村の大切な財源を投入して運行しますので、その事業計画は市民が納得するものにしなければなりません。したがって、事業計画のポイントは「事業の費用対効果が最も高まるよう、バスルート等を設定すること」「市民にとって利用しやすい、利用したくなるバスサービスを提供すること」になると考えられます。そこで、以下の示す事項に配慮することが求められます。

1)事業の費用対効果が最も高まるよう、バスルート等を設定すること

 第一に、市内全域にコミュニティバスのルートを設定することは、多額の運行経費を必要としますので、現実的にはむずかしいと考えられます。そこで、引き続き運行される既存の鉄道・バス路線を十分に生かしながら、それと連携・補完する形でコミュニティバスのルートを設定する必要があります。
 第二に、コミュニティバスは一般に小型車両を用いることが多いので、その特性を生かして、住宅市街地の生活道路まで入り込み、より多くの利用者を拾えるようなルートを設定する必要があります。
 第三に、費用対効果の視点で考えると、運行開始当初に利用ニーズのある地域ですべてルート設定するのではなく、住宅団地など利用者数がある程度確保できる地域から設定し、事業が軌道に乗った段階で徐々に広げていく必要があります。

2)市民にとって利用しやすい、利用したくなるバスサービスを提供すること

 第一に、市民にとってわかりやすいルート・サービスを設定することが考えられます。市民が既存のバス路線を利用しない理由として「利用の仕方がわからない」「時間が不正確である」「料金が高い」などがあげられてます。そこで、乗車から降車までの乗り継ぎをできるだけ少なくすること、ルートの遠距離化を避けてダイヤの乱れを防ぐこと、料金を均一にすること(例えば100円、ワンコイン)、といった工夫があげられます。
 第二に、バスを知ってもらい、市民が「マイバス」と思えるような工夫が考えられます。具体的には、広報紙やインターネットなどを活用した積極的なPR、イベント時における試乗機会の充実、親しみの持てるニックネームをつける、アピール性のあるデザインを施す、などがあげられます。
 第三に、バスを利用しやすいような工夫が考えられます。具体的には、時刻表の普及、毎時○○分発車というように定刻ダイヤの設定、高齢者や障害を持つ方にも利用しやすいようなバス車両の導入(低床バス、握り棒の工夫など)などがあげられます。
 第四に、バスを利用することで市民がメリットを享受できる工夫が考えられます。具体的には、催事・イベントとバス乗車券をセットで販売してトータル料金を割り引くこと、商店街と連携してバスを利用して商店街に買い物に来た市民には商品の購入代金を割り引くことなどがあげられます。

3.事業計画策定におけるコンサルタントの役割

 先にも述べましたが、コミュニティバス事業は黒字になることはまずありません。市町村の一般財源を投入することから、事業計画は市民が納得できるものをつくる必要があり、そうした計画をつくることがコンサルタントとしての使命です。
 どのようにして市民が納得できるものをつくるか。それは、多様な手段を用いて市民のニーズを十分に把握し、それを十分に配慮しながら、また運行経費を十分に考慮しながら事業計画を策定する必要があります。また、策定したものは、市民に正確かつわかりやすく説明できるようなものとし、市民への説明責任(アカウンタビリティ)を果たすうえで耐えうるものにしなければなりません。

辻川琢也(社団法人地域問題研究所)/2000.11

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