公園の再整備を自分たちの手で/名古屋市港区(築地地区「夢塾21」) 

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 ワークショップ/タウンウォッチング/環境教育/まちづくり基金

はじめに

 最近、まちづくりにおいてもワークショップという言葉が盛んに使われるようになりました。ワークショップとは作業場、研修会などの意味ですが、まちづくりの分野では、地域にかかわる多様な人々が各種の共同作業を通じて地域の課題を発見したり、解決策や計画案を考えたりする活動をいいます。
 これまでのまちづくりにおいては、住民参加といってもアンケート調査に応えたり、行政の提案する案に対して意見を述べる程度に留まっていました。そんなまちづくりを住民が主体的に関われるようなまちづくりに変えていくための手法の1つとしてワークショップが取り入れられるようになりました。
 いろいろな計画づくりの場面で、ワークショップが行われる事例が増えていますが、ここでは住民の方々がワークショップの企画・運営にも積極的に関わった事例として、名古屋市築地地区の夢塾21の取り組みを紹介したいと思います。

1. 築地地区におけるまちづくりの取り組み

子供たちによる「こんな稲荷公園だったらいいな」の絵画コンクール優秀作品 築地地区は「港まち」として発展したところですが、港湾機能の沖合展開の中で、当地区の港湾機能の低下し、商業・業務機能の停滞や人口の流出が顕著となりました。このような中で、市民に親しまれるみなとづくりが課題としてとりあげられたことがまちづくりの始まりといえます。
 当初は行政の取り組みが中心でしたが、1986(S61)年度に再開発事業の実施に伴う地元組織を母体として築地ポートタウン21まちづくりの会が発足したことを契機に住民が主体的に関わるまちづくりがはじまりました。活動としては、年に数回、行政との懇談会やまちづくりの先進地視察、まちづくりニュースの発行(隔月)をしており、世界デザイン博覧会においては、築地地区全体を宝島にみたてた「宝島フェスティバル」を開催したり、ラブホテル建設反対運動などにも取り組んできたという経緯があります。
 夢塾21はまちづくりの会の中に設置された「福祉・景観」を中心テーマとした専門委員会の愛称です。当初は1年間の活動として発足しましたが、「車いすタウンウォッチング」などの取り組みを通じて、住民のまちづくりに対する関心が高まり、具体的なまちづくりの取り組みの第一弾として、稲荷公園の再整備の計画づくりにとりくむこととなりました。私は、市の要請を受けて、その取り組みを手伝うこととなりました。

2. 夢塾21による公園づくりのとりくみ

第1回ワークショップ−車いすによる公園チェック まず、1997年度に4回のワークショップなどを経て計画案をとりまとめ、住民からの提案という形で行政に提出しました。
 4回のワークショプを開催するにあたり、その実行委員会ともいえる夢塾21を10回開催し、企画をとりまとめるとともに、ワークショップ当日においては夢塾21のメンバーがグループリーダーとして住民の意見を引き出すように努めました。ワークショップは周辺の住民の方々のみならず、広く学区の住民の方々に参加を求め、小学生から高齢者まで多様な人々に参加してもらうとともに、外部の応援部隊として建築学会都市デザイン部会の先生や大学生の参加もえることができました。いくつかのグループに分かれて意見交換を行いましたが、多様な意見の中から、これまで気がつかなかったことに気づくこともでき、刺激になったようです。

公園のよいところ、悪いところの発表 第1回目のワークショップでは現地をみんなでチェックし、現在の公園のよいところ、悪いところ探しを行いました。また、小学校の協力を得て、子ども達に「こんな稲荷公園がほしい」という絵を書いてもらい、第2回目のワーショップではそのコンクールを行うとともに、その絵をみながら、公園の目標づくりにとりくみました。
 第3回目のワークショップでは公園の模型づくりにとりくみ、第4回目のワークショップでは、現地に遊戯やトイレの位置を示し、その位置や大きさの確認を行いました。最終的には、みんなの意見を総合する形で夢塾21で「広場は海、丘は船が停泊する岸壁、ふれあいの中から新たなドラマを生み出そう」をコンセプトに、ニックネームを「ゆめランド」とする計画をとりまとめました。
 行政では1998年度にこの案をベースに実施設計を行い、さらに最終的な遊具選びにおいては小学生によるワークショップを開催しました。工事は1999〜2000年度の2ヶ年で行われる予定です。

3.取り組みの成果

遊具選びをしている子供達 公園という身近な施設を対象として住民の方々が主体的に考えたことは様々な面で成果がありましたが、その中でも最も大きい点として住民の意識の変化という点があげられます。
 稲荷公園は地区内の貴重な公園ですが、その利用状況は多くの人々に日常的に利用されているとはいいがたい状況にありました。それがワークショップを通じて、公園に対する愛着がわき、その管理についても地域で取り組んでいこうという意識が生まれています。
 さらに、大きな点としては、当初、トイレの設置に反対していた周辺地域の人々が、子ども達の声を聞くなどする中で、トイレの重要性を認識し、設置する方向でまとまったことです。稲荷公園が公園のある町内だけの公園ではなく、地区全体の公園として意識されてきたといえるのではないでしょうか。 
 小学校の協力によって進められたという点も重要です。地元の西築地小学校では、まちづくりを教育のテーマとしたとりくみを実施しており、まちづくりの会が授業を受け持ったこともあります。夢塾21にも小学校の先生の参加があり、絵画コンクールについては小学校として取り組んでもらったこともあり、多くの応募が得られました。また、遊具選びワークショップは学校の授業として取り組まれました。公園は子どもの利用が最も多く、その意見を取り入れていくことは重要であるとともに、環境教育として、まちづくりは重要なテーマであるといえます。まちづくりにおいて、小学校と連携し子どもを巻き込んだ取り組みを展開していくことは、今後ますます重要になるのではないかと思われます。

4. 今後のまちづくり活動の展開 

 稲荷公園の再整備は工事の段階に入るわけですが、手作りの公園とするため、子ども達による絵タイルづくりも計画されています。
 さらに、夢塾21では具体的なまちづくりの第2弾として防潮堤の修景をとりあげ、検討することとしています。この取り組みは(財)名古屋都市センターのまちづくり基金からの助成を受けることもできました。築地地区では住民の方々の熱心な取り組みによって、港という地区の個性を活かした、魅力あるまちづくりが展開されつつあります。このようなまちづくりに関心を持つ人が多く、応援部隊ともいえるようなものができています。私もその一員として協力していきたいと考えています。

石田富男((株)都市研究所スペーシア)/1999.11

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