◇ 記念講演

市民セクターについて考える

  松井 真理子 氏(四日市大学総合政策学部 助教授 )


 私は、島根県庁に16年勤めていましたが、そのうち1992年から2年間イギリスに滞在し、農村地域のことや市民セクターについて多くの体験をしてきました。日本に戻ってから、島根県で環境関連のNPOで、事務局長をしてきましたが、2001年から四日市大学に赴任し、四日市でもいくつかの市民活動に関わっています。
 活動を通じて最近感じていることは、市民も行政もめざすべき具体的な将来像を持っていないため、関係を上手く構築できていないことです。例えば、‘新しい時代の公’の担い手としてNPOが期待されていながらも、行政とどのように役割分担するのかという具体的なシステムがありません。その上、旧来型のたて割り行政に市民活動を当てはめようとすることにも無理がありますし、行政の評価システムのなかで、行政から参画を依頼された学識経験者やシンクタンクが地域住民の視点に立って評価していない点も上手くいかない原因の一つではないでしょうか。ハートのこもった協働のためにはしっかりしたシステムが必要です。
 一方、NPO側が抱える大きな問題としては、NPOがさも市民を代表しているかのような錯覚に陥りがちであることで、様々な多様性を持つ市民の一つの声であることを自覚しなければなりません。さらに、ただ要望するだけではなく、できることは自分でできる自発性を持った市民にならなければいけません。

 市民セクターにはいくつかの機能があります。多くのNPOが低コストで公共サービスを提供する機能にとどまっていますが、新しいアイデアや事業を生み出すイノベーション機能、政策提言や社会変革を推進するアドボカシー・社会変革機能なども重要な役割であり、それらを支えるためには、人材確保や社会全体の認知・理解が不可欠です。

 ところで、愛知県ではこの春、協働ルールブックなるものが完成しましたが、これは、イギリスで1998年に作られた「コンパクト」(政府とボランタリー/コミュニティ・セクターとの間に取り交された協定書)の日本版第1号ともいえます。イギリスのコンパクトでは、‘NPOを社会に大きな利益をもたらすものという認識のもとで行政が積極的に支援することと、政府とNPOがそれぞれ守るべき約束’が明記されています。また、今年度中にはイギリスの全ての自治体でローカルコンパクトをつくらないといけないことになっています。

 今後、市民セクターを発展させるためには、資金や人材の支援と協働のための長期的な計画・しくみづくり、市民活動に対する価値を共有できる社会づくりなど課題が山積しています。しかし、様々な形で社会に参画できることは、市民側からみると楽しい時代であり、明るい未来が見通せるような気がします。

(記録:河北 裕喜/(社) 地域問題研究所)


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