T 改正区分所有法とマンション建替え円滑化法の概要
- 新しいマンション建替え事業は、@区分所有法の改正と@マンション建替え円滑化法により担保される制度である。
1 区分所有法の改正(平成14年12月11日改正)のポイント
@建替え決議要件の見直し
(実質的に全員同意を必要とした決議を4/5以上の賛成に)
A建替え決議における敷地の同一性要件の緩和
- 一部でも重なった部分の建替えならよい、主用途が違ってもよい(店舗導入可)
B団地の建替え規定の新設
2 マンション建替え円滑化法(平成14年12月11日改正)のポイント
@法人格を有するマンション建替え組合の設立
A組合の意思決定・運営ルールの法律による明確化
B権利変換手法による権利移行の円滑化
U 市街地再開発事業と比較したマンション建替え事業の特徴
- 市街地再開発事業が「強制力」を伴う都市計画事業として実施されるの対して、マンション建替え事業は区分所有者の合意を基本とした「私的自治」に基づき進められる。
1 事業の代行措置
- 市街地再開発事業は事業の継続が困難になった場合、都道府県知事(または市町村長)が事業を代行する規定があるが、マンション建替え事業には「助言・援助」の規定はあるものの事業代行の規定はない。
2 権利変換作成基準
- 市街地再開発事業は、等価交換を原則としているが、等価交換では適正な規模を確保できず一定の追加負担により適正規模を確保するケースが一般的なマンション建替え事業では、等価原則を前提としていない。
- 市街地再開発事業が複数の敷地を1つの施設建築敷地にまとめあげる事業であることから「施設建築物及び施設建築敷地の合理的利用を図る」と規定しているのに対し、基本的に敷地単位で行われるマンション建替え事業にはこの規定はない。
3 権利変換計画に対する同意
- 市街地再開発事業は、必ずしも全員同意を必要としない。一方、マンション建替え事業でも権利変換計画については4/5以上の賛成で決議できるが、関係者の同意を前提とした私的自治に基づく事業であることから全員の同意が基本となる。
4 関係権利者同意取り付けの留意点
- 上記のようにマンション建替え事業では、権利変換計画に対する関係権利者の全員同意を原則としているが(区分所有者、借家権者、底地権者の同意が必要)、抵当権者等の同意が得られなくとも、その理由を判断して計画が認可される。
- この場合、事業代行制度の担保がないこと、等価交換原則をとっていないこと等から、抵当権者の権利に損害を与えない旨を記載した書面を添えることが求められる。
V マンション建替えの展望と問題
1 マンション建替えの展望と課題
@合意形成の円滑化
- マンション建替え円滑化法は、建替えの「促進」ではなく「円滑化」を目的としており、建替え事業そのものには補助制度が用意されていない。
- 容積に余裕があり、住宅需要があるといった恵まれた建替え環境のマンションが少なくなってきており、建替え事業にインセンティブを与える新しい補助制度を検討する必要がある。
A危険又は有害なマンションの建替え促進
- 一方、危険又は有害なマンションに対しては、市町村の「勧告」により、建替えを「促進」する特別措置も用意されている。
- しかし、「勧告」は市町村の裁量にゆだねられていること、勧告を受けた区分所有者側でも、合意形成が円滑に行われないなど、有効に建替えが促進されないことも想定されることから、建替え事業に対するの強制力の付与が今後の課題となる。
B既存不適格マンション等容積に余裕のないマンションの建替え
- 都心部の既存不適格マンションでは、総合設計制度より公開空地を捻出して、容積緩和を受けて建替えるという「公開空地確保型」の建替えは困難である。公開空地の確保を義務付けず、現況の規模にとどめて建替える「形態継承型」の総合設計制度の創出を検討する必要がある。
- 新しいマンション建替え事業では、隣接地を含めた建替えも可能となったが、隣接地については購入か賃借権の設定が前提となっており、適用できるケースが限られる。
- 隣接地の所有者が権利者として事業参加し土地の有効活用を図るなど、共同で建替えを実現する仕組みの検討が必要である。
C団地型マンションの建替え
- 都心部では、容積に余裕にない既存不適格マンションが問題となるが、郊外の大規模団地は、容積に余裕はあるものの、区分所有者が多数で合意形成が困難、そもそも住宅需要がないという問題を抱えている。
- 住棟ごとの建替え、改修にとどめる住棟、団地規模の縮小など団地全体として環境改善を図ることが可能となる新しい環境改善手法を確立する必要がある。
2 マンション建替えを超えて
@「共」の概念の確立
- マンション建替え事業は、行政学上「私」の事業であるとされており、公的介入の程度も必要最小限にとどめられている。
- しかし、マンション建替え事業は多数の権利者の共同事業であり、「私的事業」でありながら地域的な広がりを持つ事業でもあることから、従来の「公私」の概念に加え「共」の概念を確立し、公的介入の根拠を見出していく必要がある。
A区分所有の解消
- 区分所有法は、区分所有関係を解消する規定をもっていない。したがって建替えを行う場合、反対者を巻き込んで多大な時間とコストが費やされることになる。
- 区分所有関係を解消できれば、建替え決議も不要となり、土地を売却して、事業経験の豊富な民間のディベロッパーにその後の事業(反対者対策等も含め)をゆだね、権利者自らが合意形成に奔走することもなく、事業リスクも軽減される。
- 今後、全員同意によらず、多数決で区分所有関係が解消できる柔軟な制度を検討する必要がある。
Bマンション建替えからマンション再生、さらに地域再生へ
- 地球環境負荷の軽減の観点からも、単に建替えによるだけではなく、改修・保全など様々な手法を組み合わせて、マンションを再生していくという視点が重要になる。
- さらに、我が国の少子高齢化と長期的な人口の減少化傾向を見据える時、郊外の住宅地を合理的な土地利用に変換していく制度(人工物を森に還す制度など)の検討も必要な時期にきている。
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