愛知住まい・まちづくりコンサルタント協議会 総会記念フォーラム
東京圏・名古屋圏・関西圏 三大都市圏の都市居住比較
 −それぞれの都市居住ライフスタイルとまちづくり−

■フォーラムの主旨

 都市再生の1つの核として「都市居住」に注目が集まる一方で、そのライフスタイルの実像については、まだ、はっきりとした輪郭がみえていない。本フォーラムでは、東京圏、名古屋圏、関西圏の都市居住の先駆的モデル、代表的事例を通じて、どのようなライフスタイルが実現されようとしているのか、また課題は何であるかを比較検討することで、新たな都市居住のライフスタイルの実像に迫りたいと考えている。
 東京、名古屋、関西の代表的な都心居住プロジェクトの実務担当者を一同に招き、その計画論、市場戦略、後日談等を話していただき、新世紀の都市居住のあり方を考える1つの機会にしたいと考えている。

○永柳 宏 氏(UFJ総合研究所 主任研究員)

 会場で名古屋市内の中区・東区・千種区に住んでいる方は5名ほどしかいない。圧倒的に多くの人がおそらく郊外に住んでいることが伺える。60年代以降のニュータウン開発(多摩・千里・高蔵寺)もあり、多くの人が郊外に住むようになった。休日に自然を満喫するなど、郊外でのライフスタイルは比較的イメージしやすい。
 その一方で、昨今話題の都市居住については、高層のようなもの、町家型のものなど、人によってイメージに幅がある。都市の背景の違いを頭におきながら、都市居住を考える必要があり、今回は三大都市圏でみていきたい。

■事例紹介

○東京圏:山梨知彦 氏(日建設計・東京 設計室長)

事例1)飯田橋ファーストビル
事例2)勝どき6丁目計画
        〜立体複合型都心居住の大規模モデル〜

 敢えて平面的なゾーニングを否定したい。今世紀初頭までは、都市は住む、働く、遊ぶといった機能が一体となった場所であったではないか。
 東京では民間企業による都心超高層マンションの建設が目立ってきた。その住宅供給量は、2000年に7500戸であったが、2003年には12000戸まで増加する見込み。しかし、これらの多くは周辺地域と共存共栄の関係になっておらず、都心に新たな閉鎖領域が出現している。また、人口回帰といった政策上の目的で、都心居住が押し進められた付置義務住宅においても、上層の住宅と下層のオフィスとの関係性は希薄なものであった。
 これらを踏まえ、都市居住のキーワードとして「積極的な複合」「都市との共存共栄」「開かれた構成」「適切な分離」「用途の転換」を掲げ、平面的なゾーニングにかわる、用途を立体的に構成する「重層居住」を提案する。

事例1)飯田橋ファーストビル
 宿命的に都心に住まわざるを得ない人のための再開発。低層の木造右密集住宅地であり、当初、地権者は売却して郊外へと出ていくことを考えていたが、バブル崩壊により十分な売却益が得られなくなり、住み続けざるを得ない状況におかれた。のべ200回にものぼる地権者との話し合いを経て、プランを作り上げた。

【計画上のポイント】
・ 立体複合用途:1階には地権者の店舗や作業所、中間部にはオフィス、最上部には地権者の住宅を配置。
・ 2つの顔をもつ住宅:オフィスの上に空中庭園を設け、東側(下町側)には超高層住宅の顔を、西側(山手側)には丘の上の低層住宅の顔をもつ集合住宅を実現。
・ 住宅・オフィスの共存共栄:住宅とオフィスの結合部には免震装置を挿入し、事業・構造上の両面で共存共栄させた。

事例2)勝どき6丁目計画
 郊外に住んでいて積極的に都心居住を選択する人のための開発(2002年9月完成予定)。高さ190mの2棟の超高層タワーで960%の高密度。住宅は2500戸。立体的な分譲地として設計。

【計画上のポイント】
・ 生活利便施設の充実:計画地全体が閉鎖領域とならないように、低層部に商業施設、医療施設等の生活利便施設を配置し、周辺地域にも貢献。
・ スケルトン−インフィル:個人所有部分と共用部分を建築計画上でも明確に分離。第3者がサービスプロバイダーとして、共有部分を所有・各種サービスを提供するイメージ。

○名古屋圏:坂 勝雄 氏(都市基盤整備公団 中部支社)

事例)千種駅南再開発事業
  〜高齢者施設と一体となった都心居住の先駆モデル〜

 都市居住、生活利便施設の整備、広小路の景観向上の3つの整備方針。計画地は昭和36年までJR千種駅のあった場所で、40年にわたり有効利用されてこなかった。一部、日通の配送センター、アパートがあるだけ。JR千種駅、地下鉄千種駅から徒歩2分。
 単に住宅を供給するのではなく、安心・快適に住んでいただくことを主要なテーマとして設計した。分譲住宅棟(26階、117戸)、賃貸住宅棟(31階、266戸+高齢者施設)、商業施設(3階、6000u)、配送センター・駐車場(7階、425台)の複合開発で平成16年10月完成予定。

【計画上のポイント】
・ 高齢者施設の充実:介護付終身利用型有料老人ホームとして民間事業者がサービスを提供する。食事サービスや家事サポート等、高齢者サービスを賃貸・分譲居住者も利用可能。自立型高齢者住宅(58戸)、介護型居室(34室)、介護施設等で構成される。
・ 民間とのタイアップ:保留床処分に民間活力を導入し、公民で役割分担する。賃貸住宅(公団)、分譲住宅(民間ディベロッパー)、高齢者施設(民間事業者)。

○関西圏 江川直樹 氏(現代計画研究所大阪事務所 代表)

事例)(仮)アーバネックス中京
  〜「地域と共生する土地利用検討会」から生まれた都心居住型集住モデル〜

 最近の仕事の特徴として、震災復興や団地の再生のように、住み続けてきた人達の住まいや場所の更新を、低層密集型の居住形態の提案で実現している例が結構ある。今回紹介する事例も京都の中心部で低層町家が多く残る職住混在のエリアで、隣接する南側の敷地には既に中層のマンションが建っている。 計画地は、過去に400%11階建ての分譲マンション建設反対運動があり、それを機に結成された周辺住民によるまちづくりの会も参加した地域共生土地利用検討会がつくられ、繰り返し議論がなされた。当初は集客施設等も検討されたが、最終的にはこの場所にふさわしい地域共生型の賃貸集合住宅ということになり、参画を要請された。小スケールで分節された3〜8層、1階に地域共生型の施設を有する計画。2002年8月末完成予定。

【計画上のポイント】
・通風採光重視:直射日照を嫌う傾向のある京都の住まい方も参考に、通風・採光に優れた奥行きの薄いワイドフロンテージタイプをラジエーター状に列べ、フルサッシュを採用。接近感の解消、プライバシーの保護は、サッシュの中間部(アイレベル)に半透明のガラスを採用。
・周辺スケールとの合致、自立環境型:周辺のまちなみを形成する建物のボリュームに併せたボリューム単位。道路と低層住宅隣地側の高さを抑え(3〜4層)、すき間を内部構造化して環境の自立化を図る。すき間を利用して設備配管は露出したスケルトン・インフィル構造。入り口が2ヶ所あるSOHOタイプなどもある。前面通りには4階のスケール。

(関西圏の事例として他に、神戸市兵庫駅前も紹介)

○永柳 氏

【3大都市圏の都市居住のかたち】
・ 東京圏 :都市居住のマーケットが大きいため、大規模なものが成り立つ。超高層の住宅からの眺望の魅力。
・ 名古屋圏:生活のインフラが不足しているため、商業施設も含めた複合開発がよいのでは。マーケット的にはあまり大きくない。栄での可能性はある。
・ 関西圏 :コミュニティ・生活が残っている場所では、都市ストックを活用し、修復・調整によって都市居住を実現していく。生活の砦としての都市居住。街に溶け込んで住む。

■意見交換

○永柳 氏

  都市居住の心配なことで犯罪が挙げられる。映画「パニックルーム」は、街中のタウンハウスに強盗が入るというものであった。日照も都市居住では期待できないし、期待してはいけないのではないか。これら都心居住のマイナス面をどう克服するのか。

○山梨 氏(東京圏)

  都心居住では、教育や環境のまずさという話がある。教育の面では、都心部は塾も充実しており、学校もよいと言われており、一般のマーケットには悪くないと思われている。
 犯罪は非常に大きい。東京の場合、いろいろなものが大規模で、大規模なマンションではエレベーターなどセキュリティに問題がある。100軒くらいが感覚的に顔が分かる限界ではないか。自分もエレベーターでストーカーに間違われた経験がある。
  足下がエネルギッシュな東京では、住まいに「ほっとした瞬間」が求められ、その点で眺望が重視される傾向がある。日照はさほど問題にならない。

○坂 氏(名古屋圏)

  中区では児童の数が減少しており、問題となっている。
  犯罪という面では、複合ビルとして開発した場合、不特定多数の人が出入りするため、セキュリティが大きな問題となる。あまりセキュリティをしっかりさせると閉鎖的になってしまう。
  名古屋では圧倒的に南向き志向。西向きが最も嫌われる。ただ、紹介した事例では、西向きであれば、栄・セントラルタワーへの眺望が得られる。

○江川 氏(関西圏)

 プライバシーを保護しながら、人が住んでいる気配を如何に感じられるものにするか。一緒に住んでいる人が見えることは、セキュリティの面でも重要。
 都市居住において自立的に全ての住戸が南向きで日照を得ることは難しいし、日照だけでない価値も再評価されるべき。特色ある生活環境の創出も都心居住の魅力。

【質問】

Q :都心居住が進むことによって、例えば保育所や小学校が逆に足りなくなってしまった。東京都では税金をかけて都心居住が進むことをとめることを考えているという話もある。本来、24時間人がいるといった点で都心居住はよいことだと思うが、生活利便施設が不足しているまま住宅をつくるだけでは暮らしやすい街はできないのではないか?
A(山梨 氏):指摘の通りの問題は確かに言われているが、これまではマーケットが高齢者、リタイア層、DINKSに偏っていたため、その問題が顕在化していない。ただ、現在建設中の都心マンションはファミリー層をターゲットとしているため、1〜2年後はその問題が大きくクローズアップされてくるだろう。
A(江川氏):都市居住が進む一方で商店街が衰退するなど、街では様々なことが同時に起こっている。非常勤で教えている大学の卒業設計では、すたれつつある商店街を小学校にしようという提案が評価された。開発者に新しく整備させることだけを考えるのではなく、町中のストックを再利用するなど、総合的に考えていく必要があるだろう。
A(坂 氏):千種南から歩いて15分くらいのところにサッポロビール跡地があり、そこと連携できないかと考えている。千種駅から計画地を通り、サッポロビール跡地まで歩いて楽しめる歩行者ネットワークをつくりたい。名古屋市にも働きかけている。一体的・総合的なまちづくりを考えている。

■さいごに

○永柳 氏

 今日はライフスタイルというテーマであったが、特に名古屋では、都心での生活を謳歌できているのか疑問。郊外と値段がかわらないから都心に住むということがあるのではないか。そうではなく、都心ならではの魅力的なライフスタイルを求めて都心に敢えて住むようになるまでには、まだ時間がかかるのかもしれない。

文責:今村洋一(UFJ総合研究所)