[パネラー]
馬場 研治氏(鞄燗c橋住宅 代表取締役)
村上 心 氏(椙山女学園大学 生活科学部助教授)
芳賀 陽 氏(アニバーサリー代表、「歌声ひろば」主宰)
高田 弘子氏(都市調査室 代表)
丹羽 守 氏(都市基盤整備公団 中部支社 居住環境整備・再開発部長)
[コーディネーター]
瀬口 哲夫氏(名古屋市立大学 芸術工学科教授)
(瀬口氏)
今日のパネラーには住宅を供給する立場の方として馬場氏、丹羽氏がいらっしゃいます。村上先生は研究者としての立場からのお話が、芳賀氏、高田氏からは住いの経験を踏まえて色々なお話がいただけると思います。まずは、供給者としての立場からのお話を丹羽氏からお願いします。
丹羽 守 氏/地域の良さや文化を残した魅力ある都市居住を実現していく
まずは、私ども都市公団の紹介を簡単にしたいと思います。当公団の前身である日本住宅公団は戦後の住宅不足の解消が発足のきっかけでありまして、その発端の歴史がずっと引き継がれてきており、先ほど貧乏人のための住宅施策という話がありましたが、中堅勤労者の方に安心して住んでいただける住宅供給に努めてきました。その後、住宅都市整備公団になり、1年半ほど前には、住宅政策から都市政策へ大きくウェイトを移す都市基盤整備公団へと変わりました。
そういう経緯はありますが、今の一番大きな仕事はどういう住宅・住まいを提供していくかが事業の基本となっています。
公団が今やろうとしている内容は資料にある6つの柱(1.少子・高齢社会に対応したまちづくり、2.環境に配慮したまちづくり、3.高度情報化社会に対応したまちづくり、4.良好な環境形成等うつくしいまちづくり、5.防災性を向上したまちづくり、6.公民パートナーシップによるまちづくり)からなっているとお考え下さい。
「少子・高齢社会に対応したまちづくり」については、住宅ニーズが大きく変化している中、どうそのニーズにあった住宅(設備の良い小さな住宅等)へ対応していくかが大きな課題と考えています。
「環境に配慮したまちづくり」については屋上緑化や環境共生がキーワードであり、「高度情報化社会に対応したまちづくり」については情報設備の更新を念頭に入れたまちづくりといったことを考えています。こんなことを考えながら仕事を進めています。
私自身としては都心居住の良さは、利便性と快適性、それと街に住むことによってはじめて家族が生きていけるという点だと考えています。
快適性といったことを考えた場合、単体として住宅づくりを特定の事業者だけでやるのは難しいと思います。快適な環境づくりはある程度のまとまった規模の開発が必要ではないでしょうか。このあたりは公民のパートナーシップとも関わりますが、公団だけの開発ではなく、いろいろな人たちと協力しながら進めていくことが重要だと思っています。
もう一つは、小さな開発をやらざるを得ない場合は、その地域のまちづくりの文脈、コンセプトに沿った開発を考えることが重要でしょう。逆に言うと、早くからその地域のまちづくりにふさわしいコンセプトをつくることも重要だと思います。
地域が本来持っていた良さ、文化的な雰囲気を残しながらどう都市居住を実現していくかが、魅力ある都市居住を実現していくための大きな課題ではないでしょうか。
馬場 研治氏/選択肢の拡充と価値観の転換、住宅整備に合せた環境整備が必要
瀬口先生の先ほどのお話で、住宅を選ぶ過程で色々抑圧もあって、多様な住宅を選んでこなかったとありましたが、もう少し現実を見てほしいと思います。私は、それ程物事は観念的に動いていることはなく、自然発生的に今の形にしかならなかったのではないかと思っています。
ただ、先生の言われた「貧乏人のための住宅政策」は全くその通りだと思います。日本は戦後、産業復興には力を入れましたが住宅政策などはやってこなかった、その結果だと思っています。
住宅を手に入れるためには非常にお金がかかる。早いうちからそんな住宅を手に入れることができるようにするためには、それなりの政策が必要なのですが、これまでは政策金融でしか手を打ってこなかった。しかもその政策金融は、一次取得者に対するものであり、それ以後の買い替え、住み替えにはノータッチでした。旧いものをうまく使いこなす点でも、この政策金融の支援はなかったと言えます。
そう考えると、郊外に住みたいから郊外を選ぶ、都心に住みたいから都心を選ぶということではなく、取得可能なものがどこにあるのかということが先にあったのではないでしょうか。
名古屋圏の人は戸建住宅志向が非常に強い。特別、土地に対する思い入れが強いのかというと、私はそうとは思いません。単に首都圏や近畿圏に比べ、はるかに時間距離の近い色々なところに取得可能な戸建分譲住宅や土地があるからではないでしょうか。それが、コストや地価が上がってきて、都心の住宅でなければとても買えないということから、名古屋圏でもようやくマンション生活が根づいてきたと思います。
そういった都心居住が普及してきてしばらくしてはじめて、郊外の戸建住宅と都心のマンションとの比較が対等にできるようになり、どちらを買っても良いのだな、どちらにしようかな、ということを考えられるようになったのではないでしょうか。
自分の生活スタイルを考え、同じ価格ならマンションの方が良いと思えるようになってきたところで、地価が一気に下がりはじめた。そうなると、所有すること自体の意味が薄れはじめて、マンションの方へ流れが傾いてきた。
そういった大きな世の中の流れの中で、自分たちの取得可能な住宅が何なのかというふうに思考が移っているとしか思えません。
住宅の問題は政策と非常に連動しているのではないでしょうか。非常に多くの規制があって政策という流れの中で住宅を供給していかざるを得ない状況にあります。
今後は、エネルギー問題や高齢者への対応を考えた住宅の供給を考えていくと同時に、住宅から一歩外へ出た際の周辺環境も合せて考えていく必要があると思います。そうでないとこれからの住宅へは対応できないのではないでしょうか。
ただ民間が1つの住宅、1つのマンションで、いろんなことをカバーしていくことには限界があると思います。まちの環境を維持していくためには、もっとしばりを強くしても良いのではないかと考えています。官であれ民であれ、皆が同じ土俵で競い合うならしばりがきつくても構わないと思っています。それが街の環境を良くしていくためのものであるなら、我々は規制に対して反対することはないと思っています。
村上 心 氏/修理・建替から住宅の「再生」へ
(「住宅の再生・リノベーション」についてスライドにより説明)
欧米では一度建てた住宅に100年以上住んでいる。住宅の再生工事も多い。欧米では約半分が再生工事となっています。
日本では、修理・修繕か建替えのどちらかしかなかった。このことが住宅の寿命は1世代と言われることにつながっていたと思います。これに対し、欧米では再生工事が積極的に行われています。
日本でも新築ばかりつくる時代から、今あるものをどう運営していくかを考えていく時代へシフトしていかないといけないのではないでしょうか。
芳賀 陽 氏/住みよい環境は居住者の意見から、インフラ整備は不可欠
暮らしやすい街はどんな街を考えた時、私は市民や行政、業者の方のパートナーシップが一番大切だと思っています。そういう人たちが皆で知恵を出し合って、助け合っていくことができる街ではないでしょうか。
環境整備なども皆で協力しあって、解決していくことが最良の方法ではないでしょうか。
まちづくりは人づくりだと思っています。
高田 弘子氏/都心はチャンスがいっぱい、やることはまだまだたくさんある
私にとって都心居住の一番のメリットは文化接触が容易なことです。文化接触がなぜ容易かというと、芸文センターや大須にすぐ行ける。1時間以内で全部行ける。都心に住んでいることが私の生活様式、スタイルを変えました。
私もまちづくりを色々なところでやっていますが、こう感じることがあります。東区や中区などそれぞれ各地区にはその地区の特性というのがありますが、いくら地区の特性を集めても都心文化にはならない、ということです。
都心には何かこう他の文化的な価値がつくられても良いのではないでしょうか。地区特性に応じた異なるタイプの整備イメージではダメだということです。各々の地区特性を重ね合わせてみても魅力にはならない。名古屋の中心としての文化の香りがあるんですが、今ひとつ表現できなくて、私の課題になっています。
2番目の「まちなか再生の担い手は誰か」ということですが、できれば中心部に住む人、今住んでいないけど住みたいと思っている人、それと働いている人で議論して都心文化を考えてみたと思っています。そんな人を集める運動をしたらどうかなと思います。
それと、その担い手の主たる人は、半世紀人間に限定したい。50歳を越えた人でやりたい。この人たちにこれからの人生の目的を差し上げたい。特にその中でも女性の役割を重要視したい。男は意気地がない、判断力がない。その女性の後ろに半世紀男性を従えていきたいなと思っています。
自分の街ではおとなしく、コミュニティづくり、まちづくりをやってくれればいい。都心でこそ、あなたのキャラクター・個性が発揮できると言いたい。
ビジネスにできる、晴の舞台を提供してくれるのが都心であり、都心居住者の特権だと思っています。そのステージを皆さんに使っていただきたい。
都心の街並みは散歩道としてほしい。手をつないで、荷物を引きずって歩ける道がいい。自転車道なんていらない。都心は大人の世界にしておきたい。子どもになんかに取られたくない。
私は自分で都心に住んでいて思うんですが、住み手に合わせてなぜ家が変わらないんでしょうか。いろいろ変えたい。でも誰に相談すれば良いか分からない。地域の中にお抱えの主治医みたいな人がいればなあと思っています。
私は都心に住んでいるから郊外に住んでいる人と友達になりたい。郊外は時々がいい。ずっとは嫌だ。
………意見交換………
(瀬口氏)
男性3人は生活の姿が見えない話で、女性2人は居住者・生活者側に立った話だったような気がしています。何か付け加えることはありますか。
(村上氏)
先ほど集合住宅や団地再生のスライドを見てもらいましたが、これは建築や住居の問題ではないことをお話したいと思います。
住戸の中の問題は家族で決められる問題、住戸がいくつか集まったマンションでの問題はマンション住民全員で話し合う問題、そう考えていくと、いくつかの住宅やマンションが集まった街の問題は街で考えていかないといけない。そういう仕組みが日本ではうまく機能していないと私は思っています。
それをいかに機能させるかといった時にはテーマが必要だと思います。これまで、そのテーマはマスタープランづくりのように漠然としたテーマで緊急性にかけたところがあったんですが、これからは集合住宅の建替えが大きなテーマになってくるのではないかと思っています。
皆の土地、皆の街、皆のマンション、共有財産としてのスペースという概念が日本では欠けているような気がしています。その中で専門家の役割が重要になってくるのではないでしょうか。
例えば、集合住宅再生という具体的テーマがある時に住民の人はまず何からはじめたら良いか分からない。そこに専門家の役割があると思います。
さらに、同時に公共側の役割も重要だと思います。今、公共は何をすべきか。例えば、住民がまちづくりをしようとした時に、それをどのようにサポートしていくかという仕組みが必要なんではないでしょうか。
そこで重要なのは、マンションごと、街並みごとに、団地ごとにやるべき内容は違うはずなので、画一的に決めをつくるのではないということを言いたい。個別のメニューを専門家がつくって、それを個別に公共がサポートできる体制があると良いのではないでしょうか。
(瀬口氏)
日本と欧米のまちづくり、都市計画の違いは、欧米のまちづくりの主体は住民であり、住民共通の部分は住民で決めていきます。日本の場合は行政主体。共通の部分というかまちづくりの意識が基本的に日本と欧米では違う気がしています。
日本では住民が行政にやってください、というようなスタンスの言葉使いが多い気がします。そういった状況で、これまでコンサルタントは行政の方、発注者の方ばかりに顔が向いていたのではないでしょうか。これからは、もう少し住民の方にスタンスをおく必要があると思います。
また、行政の方もこれまでしっかりとした計画・立案のできる人間を育ててきたかというと、皆さんご存知のとおりです。これからは、行政、コンサルタントともに真価が問われる時代になってきたのではないでしょうか。
(日建設計 三輪氏)
これからリニューアルやストックをどう活かしていくかといったことを考える時、うまくそのための仕組みをつくっていくことが必要だと思いますが、そのあたりの動向や方向性のような話がいただけたらと思います。
(馬場氏)
ハードの面はいくらでも再生が可能だと思いますが、一番問題なのは少し改良しようとした際に既存不適格になる場合がほとんどだということです。これは行政側の意識が少し遅れているからではないでしょうか。既存のストックを活用して、都市全体を再生していこうとする流れの中では、恐らく変わっていくと思います。今ある様々な規制等はリニューアルに向けて柔軟に対応ができるようになるでしょう。また、リニューアルに対するインセンティブを与えるような仕組みもできていくはずです。
もう一つ言っておきたいのは、中古の流通に回す際、現時点で耐震診断の結果が非常に悪ければ取引ができない仕組みをつくるとか、増改築をする際に既存不適格であるものは必ず補強しなければできない仕組みまでつくるなど、そういう形で物を動かしていかないと、すでにでき上がってしまったものに改善・改良を加えていくことは非常に難しいことだと思います。
(瀬口氏)
住宅ストックを住宅にするというだけではなくて、他に機能転用する発想があっても良いのではないでしょうか。住宅の場合、非常に転用しにくいという先入観がありますが、そういう選択肢はないのでしょうか。
(丹羽氏)
公団としても最近はリニューアルに力を入れています。公団住宅についていえば、新築よりもリニューアルの戸数の方が多い状況になっており、リニューアルは非常に重要な政策テーマになってきています。
基本的な今の生活レベルを受け入れられないような住宅ストックが結構多くあります。それをリニューアルしていくことはかなり大変なことだと思っています。ただ、リニューアルについては大家の立場としては一生懸命努力していることをお伝えしたいと思います。
また、住宅の機能転用については、いろいろ面倒な手続きの問題はありますが、今後は住宅戸数を減らさざるを得ないのではないでしょうか。特に、都心に住んでもらおうという大きな流れの中では、郊外の住宅が余ってくる。それをどう使うかは、知恵を出していかないといけないと思っています。
(瀬口氏)
今日はどうもありがとうございました。