遠郊外住宅地の住環境改善/埼玉県飯能市原市場地区

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遠郊外住宅地/自然環境の活用/敷地の拡大

はじめに

 これまで遠郊外地では、開発規制が緩いこと、農林業の経営環境の悪化、地価の安さ、一戸建て志向などから住宅地が多く開発されてきました。しかし、これらの住宅地は市街地と同様に敷地が狭く画一的であり、市街地と離れているため生活利便性が悪い住宅地が少なくありません。
 わが国では2006年以降、長期の人口減少過程に入ると予測されています。このような時代になると、これまでのように宅地を開発すれば売れる時代ではなくなり、遠郊外地ではこれまでのような宅地開発が起こらなくなるだけでなく、既存の住宅地から生活に便利な市街地へと人が流出し、捨て去られる恐れがあります。そのため、今ある住宅地を維持するには、市街地と同様の住宅地ではなく、遠郊外地の地域・自然環境に相応しい住環境をつくり、差別化を図る必要があります。以上の理由から、今後、遠郊外住宅地では住環境の改善が必要になってくるのです。

原市場地区の状況

 原市場地区のある飯能市は人口約8万人、埼玉県の南西部、関東平野の端で秩父地方の入口にあたり、面積の約70%を山林が占める山間の市です。東京都心から西武鉄道池袋線で約50分の距離にあることから、東京のベッドタウンとして発展してきた一方で、昔から林業の盛んな地域でもあります。原市場地区は飯能市の西部、市の中心部からバスで約30分の距離にあり、地区の約90%を山林が占め、全域が都市計画区域外となっています。
 原市場地区では、1で述べたような理由で1970年代から宅地開発が始まり、1980年以降急激に人口が増加しました。地区では小規模な開発が無秩序に進行しました。市では急速な宅地化の抑制を試みたものの、都市計画区域外であるため有効な規制もなく、また強い規制をかけることに対する住民の反対などにより開発を抑制できず、結果として30〜45坪の住宅が密集する住宅地が形成されました。現在では開発は収束しましたが、逆に2000年以降人口が減少しており、同市内の山間の地区で過疎化が進んでいることから、過疎化が懸念されています。


原市場地区の位置


人口と建築件数

住民へのアンケートから

 地区の新規居住者に対して、地区の選定理由や地区環境、住宅などについてのアンケートを行いました。選定理由では多くの人が「一戸建てに住みたかった」、「価格がよかった」としており、「地区の自然環境の良さ」も選定理由の1つとしている人も約半数いましたが、全体的に場所よりも住宅条件で選んだ人が多くなっています。地区に関しては、自然環境が豊かであると評価する一方で、「道路が狭い」、「公園がない」、「公共交通が不便」、「買い物が不便」と評価する人が多く、地区の生活利便性はよいとはいえません。住宅については「敷地が狭い」、「日当たりが悪い(隣棟間隔の狭さ、林地の影響)」と評価する人が多く、半数の人が敷地を拡大したい意向がありました。また、将来の居住意向では半数の人が他の地域への転出を考えています。理由としては、「公共交通が使いにくい」、「中心部に遠く生活に不便」、「高齢になると生活しにくい」などを理由に挙げる人が多く、生活利便性が悪くても住みたくなるような、市街地にはない良さがなくなれば、生活に便利な市街地へと人が出て行く恐れがあります。この結果は原市場地区に限らず、多くの遠郊外の住宅地にあてはまるでしょう。





原市場地区の自然と住宅地

どう改善するのか

 では、市街地の住宅地と差別化を図るために、どう改善すればよいのでしょうか。方向性としては次の2つが考えられます。まず自然環境の活用です。アンケートでは地区についてプラスに評価している点は自然環境の豊かさのみであり、選定理由にも自然環境の豊かさが挙げられていました。また、半数の住民に市民農園などの農業体験の意向がありました。自然環境の活用として、まず農地を農産物の生産のみの空間として捉えるだけでなく、住民のレクリエーションの場としても位置づけることが必要です。市が市民農園を運営する、または農家による運営を市が推進、支援するなど、検討が必要です。また、子どもの遊び場についてアンケートしたところ、公園が整備されていない分、川や林などの自然で遊ぶ機会が多いことがわかりました。このような地域では、必ずしも公園を整備する必要はなく、自然環境を遊び場としても活用することが考えられます。他にも様々な方法があるでしょうが、自然環境を計画的に活用することが必要です。
 次に、住宅の敷地の拡大です。アンケートでは半数の人が敷地を拡大したい意向がありました。現在の地区の住宅地は敷地が狭く、地域環境に相応しい住環境を形成しているとはいえません。そのため、敷地の拡大が必要です。地区内では実際に、空き家の増えた街区を更地に戻し、区画数を減らして敷地を広く取り、再度建築するという事例もみられます。この方法は住民の経済的負担とマッチすれば、一定の効果があると思われます。また、人口減少による空地や空き家の増加とともに、隣地を購入して敷地を拡大するという方法も徐々に広めていく必要があり、支援の方法も検討する必要があるでしょう。この地区では1980年以降に建築された住宅の多くが建替などをしておらず、今後、住宅の更新が増えると予想されます。原市場地区に限らず、今後、住宅の更新が増える時期に、敷地の拡大や、デザインガイドラインによる地域に相応しい景観への誘導など、住環境の改善をいかに進められるかが、遠郊外住宅地の生き残りにつながるでしょう。

久保岳生((株)アール・アイ・エー)/2004.6

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